テスラにも資金が集まる新投資基準「ESG」、世界で残高21兆ドルに

社会課題の解決へ、発言する経営者が支持される

 企業に環境や社会の課題解決を求める新しい投資基準「ESG」(環境・社会・企業統治)に基づいた投資が増えている。長期的視点の成長力を評価する同基準は2015年に世界最大級の機関投資家である日本の年金積立金管理運用独立法人(GPIF)も重視を表明している。短期の利益にとらわれないESG投資は、ベンチャー企業の育成にとっても有効だ。  株式の時価総額で米自動車業界のトップに立った電気自動車(EV)メーカーの米テスラ。同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は宇宙ロケット開発のスペースX、太陽光発電事業のソーラーシティも手がける。傍目には荒唐無稽な目標を掲げながら技術革新を起こしている。  天才起業家と評価されるが、何度も挫折を経験してきた。03年に設立したテスラもEVの生産が思うようにいかず、注文の台数を出荷できない時期が長かった。それでも投資家の期待を集め、同社は毎年、投資家から資金調達。10年の上場後も赤字続きだが、株価の上昇が止まらない。  こうした背景にあるのが、投資の新しい潮流であるESG投資。環境や社会課題を解決する力があり、不正を犯さない企業を選ぶ投資だ。  世界のESG投資残高は21兆ドル(2100兆円)で、9割を欧米が占める。マスクCEOが手がけるEVや太陽光発電は、環境や社会課題を解決する。火星移住計画は長期戦略であり、地球に帰還したロケットを再利用する技術革新を生んだ。ベンチャー企業だが、ESGの視点では社会の要請にかなった経営ということになる。  投資家には08年のリーマン・ショックによる経済危機において、短期間に高い配当をする企業に資金を注ぎ込んだが、その企業が破綻して損害を受けた事例が少なくない。そこで長期的に成長する企業を選ぼうとESGが投資基準として注目され、GPIFも同基準を重視するようになった。  ベンチャー企業も長期視点の評価なら目の前の業績に振り回されず、技術開発に打ち込める。企業に長期の成長戦略を描くように働きかける投資家が増えていきそうだ。  環境・社会課題の解決、長期視点の経営がなぜ、企業の成長につながるのか。気候変動問題の解決に向けて提言活動を続ける国連環境計画・金融イニシアチブの末吉竹二郎特別顧問(元日興アセットマネジメント副社長)に聞いた。  ―壮大な目標を掲げるマスクCEOを投資家が支持するのはなぜでしょう。  「米国には新しいモノに投資する文化が脈々と続いている。ケネディ大統領が掲げた人類の月面着陸も荒唐無稽と思われたが、みんなが動き、技術革新が起きた。ビジョンが人を引っ張る」  ―社会貢献を経営理念とする日本企業が多いです。  「日本では夢を持っても、達成する意欲が薄い。しかもマスクCEOのように地球規模の課題解決をビジョンにしようとしない。米国のCEOは社会的問題でも自分の意見を言うが、日本のトップは発言を控える。社内調整がないと発言できないというが、トップの発言を許容すべきだ」  ―確かに日本企業のトップが環境や社会課題について発信する機会が少ないです。  「企業の影響力は大きい。将来の生活を左右し、希望をもたらしたり、落胆を与えたりするかもしれない。経営者は目先よりも、社会全体を見渡すと大きなビジネスチャンスをつかめる」  ―投資家は長期視点の経営を求めています。  「かつて米国は四半期の成果が重視され、日本は安定株主がいたので長期視点で経営に打ち込めた。今は逆になった。長期戦略を持つ海外企業は、大胆な転換ができる。アップルやグーグルが事業で使う電気全量を再生可能エネルギーにすると宣言したのも、長期でみると電力費を抑えられると考えたからだ」  ―日本でテスラのような企業が生まれるには。  「起業家が失敗しても社会が温かく見守り評価すること。違うことを言うようだが、競争は厳しい方が良い」  蓄電池専業のエリーパワーは、製造業ベンチャーとして成長を続けている数少ない日本企業だ。家庭の電気を蓄電池で賄うという発想がない06年に設立し、大企業から出資を受けて工場を立ち上げた。69歳で起業した吉田博一社長にベンチャー成功の課題を聞いた。  ―03年に慶応義塾大学で始めたEVの開発プロジェクトが起業のきっかけです。テスラも同年の創業です。  「我々はEVを2台作った。だが、日本では燃料電池車(FCV)が有望とされており、EVへの期待は高くなかったので蓄電池に集中した。マスクCEOはPR力があり、政府も巻き込んでいった」  ―エリーパワーは企業を中心に315億円の出資を得ました。  「蓄電池でエネルギーを無駄なく使うことが地球環境問題の解決になると思い、起業した。シンクタンクは蓄電池の市場はないと報告していたが、出資者は私の思いに共感してくれたのだろう」  ―日本で製造業のベンチャーが育ちにくい理由は。  「理由は3点。一つは、何でも作れる総合メーカーが多く、モノづくりが装置化されていること。新しい製品が世に出ると、総合メーカーはすぐに作れる。装置に頼るため、他社と違うことを拒絶する。似た製品同士で競争するので価格を安くして売るしかなく、新しい産業ができない」  「金融構造の変化が2点目。合併でメガバンク化し、一つの銀行内に同じ業界の融資先を何社も抱えた。思い切った支援をしようにも、1社に絞り込めない。三つめが、リスクをとらないこと。失敗を許さない空気があり、敗者を二度と立ち上がれないくらい批判する。ベンチャーの失敗は仕方ない。失敗を修正するから成長する」  ―製造業のベンチャーが成功するには。  「若者の起業家と私のようなベテランとの組み合わせなら、日本でもできる。年配者にはオーガナイズ(まとめる)力がある」 (文=松木喬)

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