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首都圏「3環状道路」の整備で渋滞緩和は進むか

ヒト・モノ・カネの動きはどう変わる
 首都圏で道路網の整備が進んでいる。都心を中心に弧を描くように位置する首都圏中央連絡自動車道(圏央道)、東京外かく環状道路(外環道)、首都高速中央環状線(中央環状線)は、交通渋滞の緩和や経済活動の活性化といった効果が期待されている。道路がつながることで新たなヒト・モノの動きを誘発し、物流や観光などにプラスに働く。周辺の地方自治体にとっては、道路網のストック効果を地元の発展に取り込む工夫が重要だ。

 「圏央道沿線に立地する約1600件の大型物流施設で、生産性向上の加速が期待できる」(国土交通省)ー。圏央道の境古河IC(インターチェンジ、茨城県境町)―つくば中央IC(同つくば市)間の28・5キロメートルが、今年2月26日に開通した。

 同区間の開通により成田空港から日光・那須(栃木県)、富岡製糸場(群馬県)、川越(埼玉県)といった観光地へのアクセスが向上する。

 訪日外国人観光客(インバウンド)や茨城県、千葉県からの来訪者の増加を期待できる。さらに、圏央道沿いは多くの物流施設が立地するため、輸送時間の短縮などの効果を見込める。工場などの立地も進みそうだ。

 都心を中心にして、弧を描くように整備が進んでいる首都圏3環状道路。中央環状線は都心から約8キロメートル、延長約47キロメートルで15年3月に全線開通した。外環道は都心から約15キロメートル、延長約85キロメートルで現在約4割が開通。

 17年度中に三郷南IC(埼玉県三郷市)―高谷JCT(ジャンクション、仮称、千葉県市川市)が開通すると、全体の約6割開通となる。圏央道は17年2月に境古河IC―つくば中央ICが開通、全体の9割が完成した。
                   

 3環状道路の整備では、さまざまな効果が期待されている。一つが交通渋滞の緩和だ。都心からは、多くの幹線道路が放射線状に延びている。このため、都心部に流入する車が集中し、交通渋滞を生む原因になっている。

 環状道路が整備されれば道路が縦横につながり、都心を通過する車は減り渋滞を緩和できる。それに伴う輸送時間の短縮、定時制の確保など、企業の経済活動において生産性の向上につながる。

 工場や物流施設など、企業の立地効果も想定されている。特に都心から離れた郊外を通過する圏央道は、沿線市町村の工場立地面積が20年前に比べて約6倍に増加。07年に早期開通した中央自動車道(中央道)と関越自動車道(関越道)の区間では、製造品出荷額が約1・5倍に増えている。

 また、災害時において都心に向かう幹線道路が途絶した際に、環状線を使って都心への経路を確保する機能もある。観光面では、従来は難しかった日帰り旅行ができるようになったり、新たな観光需要を創出したりすることが可能だ。

 実際、開通した区間では、さまざまな経済効果が生まれている。例えば、15年10月に開通した圏央道の桶川北本IC(埼玉県桶川市)―白岡菖蒲IC(同久喜市)により、栃木方面などから神奈川・湘南地域への交通量が約4・6倍(14年比)に増加。

 神奈川県藤沢市を訪れた観光客は11、12月の平均値と比べ1・9倍の67万人が増えたと計算する。藤沢市は観光客を呼び込もうと、観光ガイドブックを作成。群馬県や茨城県、千葉県など広域に配布している。

 沿線の企業は、物流面で効果を享受している。焼き肉レストランの安楽亭グループの食品メーカーは、茨城県五霞町の物流拠点から静岡・神奈川地域への配送時間を、従来と比べて往復で約1時間短縮。配送コストも約1割削減した。

 車の通行量にも変化が起きている。トラックについて、東名高速道路(東名高速)―東北自動車道(東北道)間を往来する場合、開通前は首都高速道路(首都高速)や一般道を通過していた割合が約74%だった。

 だが、開通後は、圏央道を通過する割合が約95%になった。都心部を通過する交通量が大幅に減っている。

 このほか、圏央道の開通を見越して物流施設の立地が進展。海老名JCT(神奈川県海老名市)―久喜白岡JCT(埼玉県久喜市)沿いの大型物流施設は、09年から14年までに79件増加。延べ床面積は、09年から16年までに東京ディズニーランド約4個分の226万平方メートルまで増えた。

 その結果、東名高速から東北道間の圏央道沿線市町村の税収が増加するといった効果も生まれている。

愛知・民営化にみる「稼ぐ道路」の可能性


 こうした道路開通による効果は、全線開通から1年以上が経過した中央環状線でも出ている。渋滞の緩和や輸送時間の短縮、観光ツアーにおける買い物客の滞在時間の延長など、波及効果は大きい。3環状道路がすべてつながれば、そのメリットはより大きくなる。

 重要なことは、企業や自治体が生産性向上や観光客誘致など、道路網を生かしたさまざまな取り組みや企画を構想、実施することだ。道路がネットワーク化されることで、これまでにない人の動きやサービス、物流システムの構築が可能だ。

 特に自治体にとっては、新たなヒト・モノ・カネを生むツールになる。道路網を整備する国は「地域活性化に向けて地元で工夫してほしい」(国土交通省)と、自治体の取り組みに期待する。

 その好例になるのが、愛知県内の有料道路8路線の民営化。昨年10月に全国の有料道路として初めて民営化。県は前田建設工業を中心とする企業グループに運営権を譲渡し、最長30年の運営権への対価として1377億円を受け取る。

 公共インフラの運営権を民間に売却する「コンセッション」は空港などで先行しており、有料道路に広がることで、地域活性化の有力な手段として期待が高まっている。

 「わが国初の有料道路コンセッションの実現。感慨深い」(大村秀章愛知県知事)ー。県は2012年、道路整備特別措置法で認められていない有料道路運営への民間参入を進めるべく、国の構造改革特区制度による特例措置を提案。15年に国家戦略特区の区域計画が認定された。

 民営化するのは愛知県道路公社が管理する8路線(総延長73・5キロメートル)。前田建設工業や森トラスト、大和ハウス工業などでつくる企業グループが運営を受託。特別目的会社(SPC)「愛知道路コンセッション」を設立した。
             

 コンセッション開始に併せ、すぐに中部国際空港連絡道路の通行料を従来の半額の180円に引き下げた。またSPCの事業計画は道路運営に加え、観光施設新設などの沿線開発も盛り込み、地域活性化を強く意識したものになっている。パーキングエリア(PA)に観光客向けの季節マルシェ(市場)を設置したり、有名な料理人らを起用した「食とやすらぎのリゾート施設」を展開したりする。
 
 また中部国際空港島(愛知県常滑市)には客室数150―300室程度の外資系ホテルを誘致。さらには、酪農が盛んな愛知県の知多半島の特色を生かし、牛ふんを用いたバイオガス発電事業も予定する。

 運営会社の中核、前田建設は「単なるインフラの効率運営だけでなく、地域活性化が大きなポイント。今後のコンセッションの普及拡大にも大きく影響する」という。今後、4―8年程度の間にこれらの施設を順次開業する方針だ。

 県、事業者、利用者の「三方よし」を掲げる有料道路コンセッションに課題はないのか。愛知県幹部は「運営期間の長さ」を挙げる。最長30年という運営期間の中で事業継続が困難になるリスクもある。期間が長いため想定していないことも起こりうる。県とSPCが対等のパートナーとして連携することが必要だろう。

 空港などの単一施設の民営化とは異なり、道路の民営化では地域全体の活性化を考えることができる。今回は愛知県の知多地域という場所自体に観光資源としての魅力があるともいえる。これが例えば、人口減少の激しい地域だとどうなるか。全国に道路の民営化が広がるかはまだ未知数な部分もある。

 高速道路は日本の誇るアセット。利権の温床にもならないためにも、アセットの価値を適正に競い合う形で上げ、評価する仕組みも必要だろう。
 
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
これから自動運転が普及することで「道路」のマネジメントはより重要になりそう。その役割分担をどうしていくか。

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