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「ナノカーレース」に日本代表として参戦する3児の母

物材機構の中西和嘉さん。薬を作りたいから有機構造化学の専門に
 分子の機能はその形に宿る。有機構造化学は分子の構造を作り込み、機能を引き出す研究だ。物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)の中西和嘉MANA研究者は、ペンチやチョウのように動く有機分子を合成してきた。このチョウ型分子を携えて国際大会「ナノカーレース」に日本代表として参戦する。私生活では3児の母として子育てに追われる身だ。研究と育児の道のりを駆け抜ける。

 分子の形をうまく設計するとシリンダーやモーターのように動かすことができる。この分子の部品を組み合わせてナノサイズ(ナノは10億分の1)の機械を作る研究は、2016年のノーベル化学賞に選ばれた。

 中西研究者はペンチ型の分子を合成した。ペンチ型分子を界面に整列させると刃を開いたり閉じたりできる。特定イオンを選ぶなどの機能を持たせられる。

 この有機合成の腕を見込まれ、フランスで開催のナノカーレースに参戦することになった。金基板表面で分子の車が100ナノメートルの距離を移動するタイムを競う耐久レースだ。中西研究者はチョウ型分子を合成。横転しても動き続けられる利点を生かして完走を目指す。

 研究者の道に進んだきっかけは薬を作りたいと思ったことだ。大学は薬学部に進み、薬剤師の資格もとった。有機化学や生物を学び、数年だがシミュレーションも集中的に研究した。

 現在は有機構造化学を専門とする。「自分の専門は何かと悩んだが、いろいろ経験したことで広い分野の研究者先生と話ができるようになった」と振り返る。物材機構はチームで研究を進める。有機合成や計測、シミュレーションなどの専門家が連携するため、幅広い経験が役立った。

 現在は3児の母。研究に使える時間は独身時代の6割に減った。「時間が減るのは仕方ない。限られた時間で自分がやるべきことを絞り込む」ことを学んだ。

 例えば内部で使う説明資料はとても簡素にすることを心がけた。「内部資料は手書き。見た目は汚くても結果と考察、本質が伝わればいい」。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年4月26日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
選択と集中を進めてもチームなら補完できる。「私は女性研究者のモデルにはなれない。チームをまとめる上司と家事育児を分担する夫。私の周りがロールモデル」と笑う。

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