電力自由化カウントダウン! ――ビッグデータで新市場

カギを握る「生活者」の同意

エプコの電力ビッグデータ監視画面

 家庭やビル、発電所から集まる“電力ビッグデータ”が新しい市場を生みだそうとしている。2016年の電力小売りの全面自由化が迫り、ベンチャー、印刷、IT、家電などさまざまな業種の企業が新ビジネスの鉱脈を掘り当てようと電力ビッグデータの解析技術に磨きをかけている。解析データは住宅リフォームの提案や、キャンペーン情報の提供、さらに地域活性化と、さまざまな新サービスを生みだし、波及効果も期待できる。  【今春、実証開始】  福岡県みやま市は電力データを活用した住民サービスを提供する実証事業を4月に始める。市の全世帯の約1割に当たる2000世帯が参加する大規模な実証だ。みやま市と同市と提携するエプコの担当者が準備に追われている。  電力データは各家庭に設置した家庭用エネルギー管理システム(HEMS)から収集する。通常の電力メーターだと検針は月1回だが、HEMSは30分おきの電力使用の実績を計測し、サーバーに送信する。住民もスマートフォンなどでいつでも実績を確認できる。HEMSは普及が始まっているが、電力使用量を“見える化”して節電を促すだけで十分に使いこなされてこなかった。HEMSの電力データを節電以外でも活用しようというのが実証の狙いだ。経済産業省の大規模HEMS情報基盤整備事業に採択されている。  市とエプコは四つの実証サービスメニューを用意した。その一つの「電気・ガス料金プラン診断サービス」は電力の使われ方を解析し、最適な電力料金プランや住宅リフォーム案を提案する。電力データ以外に家族構成、エアコンや冷蔵庫など家電の品番、生活パターンの情報も取り込んで解析し、最適な提案書を作成する。  【家庭別の節電提案】  エプコの磯部達取締役は「しっかりしたデータに裏打ちされた提案ができる」と自信をみせる。例えばリフォームや家電の買い替えの時、カタログにある「1万円の節電」などの数値を参考にするが、標準家庭で想定されたコスト効果のため、各家庭の実態と違う場合がある。実証サービスは電力データを見極めた上での提案となり、家庭別に精度の高いコスト効果を算出できる。リフォームや買い替え需要が喚起されれば地元の工務店や電器店の仕事が増え、地域活性化につながる。  他にも住宅用太陽光パネルからの電力買い取り、地域での買い物に使えるクーポン発行、普段と違う電力の使われ方から異常を検知する高齢者見守りサービスもある。  エプコは住宅の設備設計が主力で、売上高は30億円。電力ビジネスに将来性を感じ、電力自由化の“先輩”英国のケンブリッジ大学と提携して電力ビッグデータの解析手法を研究してきた。磯部取締役は「データを一元的に解析するビジネスをもくろんでいる」と話す。事業者や自治体に代わってエプコがデータを解析し、サービス内容に合わせて加工して提供する。事業者などは自前で解析システムを構築しなくても新ビジネスを展開できる。電力ビッグデータの解析プラットホームがエプコの目指すビジネスモデルだ。  【マーケティング/来店促す“時間帯”】  凸版印刷も解析プラットホームの提供を目指す。同社は電力データをマーケティングに活用する情報処理手法を開発済みだ。HEMSの電力データと家族構成から電力使用パターンを分類。消費者に販促情報を送りたい企業の要望も組み込み、「どの家庭に、どんなタイミングで、どの媒体(スマートフォンやテレビ)に情報を送ると効果的かを導き出せる」(東和弘エネルギーソリューションセンター部長)という。サラリーマンなら夜のくつろいだ時間にスマホへ、高齢者なら朝にテレビへと選択して配信する。  これまでに経産省の事業に参加し、200世帯を対象に地域の商業施設への来店を促す実証をした。その結果、処理技術で判定されたタイミングで情報を出した家庭は、他の時間帯に情報を届けた家庭よりも来店が多かった。同社も大規模HEMS情報基盤整備事業に参加し、15年度は全国1万4000世帯を対象に技術を検証できる。  【需給調整に活用/高精度な予測】  伊藤忠テクノソリューションズは電力データを活用した電力事業者の業務支援を検討している。ターゲットの一つが電力事業の経験が浅い新電力(PPS)だ。  PPSは電力の需要予測が外れ、供給量が不足すると電力会社からペナルティーとして割高な電力を調達して埋め合わせている。回避するには需要と供給を一致させる必要があり、高精度予測が求められている。  そこで同社が開発を進めているのが電力需要予測サービスだ。HEMSの電力データから電力の使用傾向を分析。人間活動の予測も計算し、高精度に需要を予測する。  同社はすでに東北地方の風力発電所の発電量予測サービスを提供している。気象庁の風況予想から風の吹き方を分析し、発電量を予測する。実際の発電量と予測値の誤差は10%以内と高精度だ。電力会社は予測値を基に供給計画をつくり、需給を一致させている。  発電と需要の予測サービスをセットで提供するとPPSも需給を一致でき、ペナルティーを回避できる。新エネルギー・開発課の佐治憲介氏は「サービスイン(事業化)はまだだが、大手PPSに採用を持ちかけている段階」という。  【進む実用化。学習機能、きめ細かく制御】  すでに電力データの活用が始まっている。西濃建設(岐阜県揖斐川町)の住宅販売子会社の社長は家族4人が暮らす自宅でシャープの太陽光パネルと蓄電池、HMESを利用している。発電量や電力使用のデータはクラウドに送られている。クラウド側では天気予報から蓄電池の運転計画を策定して充電、放電を指示している。  シャープは今後、クラウドに蓄積した電力データを解析し、各家庭の電力使用の傾向を学習する機能を追加する。学習結果に時間別の電力料金の情報も加え、一番安くなるように充放電のタイミングをきめ細かく制御する。  従来、家電メーカーは今ある製品を売ることがビジネスモデルだった。電力データの解析によるサービス事業は消費者と接点を持ち続けられ買い替え需要も取り込める。  電力データは製品開発にも生かされている。NECは電力データを基に家庭用蓄電池の新製品を設計した。蓄電池と太陽光パネルを利用する実際の家庭の電力使用や発電、購入電力のデータを解析し、最適な充電容量7・8キロワット時を導き出した。従来製品は5・5キロワット時だった。新しい充電容量だと、充電した太陽光の電力で家庭の1日の使用電力を賄え、電力を自給自足できる計算になる。  【生活者の同意必要】  これまで月1回計測される電力使用量は課金のためのデータでしかなかった。HEMSに続き、スマートメーター(通信機能付き電力量計)の設置も始まっており、膨大な電力データが集まるようになる。その電力ビッグデータは解析次第で新しい価値を持った情報となる。だが、電力データから生活がわかるため、実際のサービス提供には生活者の同意が必要。生活者の理解を得られる魅力的なサービスづくりも電力ビッグデータビジネスの成功のカギだ。

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