ティラワだけじゃないミャンマーの経済特区

再び動き出すダウェー開発

 ミャンマーでアウンサンスーチー国家顧問率いる政権誕生後、停滞していた南東部のダウェー開発が、再び動きだした。国際協力機構(JICA)は同国の要請に基づき、周辺地域も含めた総合的なダウェー開発の調査実施を決定。5月から約1年かけて調査し開発計画案を策定する。スーチー氏は大規模開発には否定的との見方もあったが、推進する姿勢が明確となった。  JICAは外部のコンサルタントなどに委託し、(1)ダウェー経済特区(SEZ)と、より広範な地域タニンダーリの開発計画(2)大水深港計画(3)電力供給計画−の案を策定する。SEZの開発だけだとミャンマー側のメリットが少ないため、広域自治体であるタニンダーリ全体への経済波及効果を見据えた計画を練る。  ダウェー開発を巡っては「年明け以降、ミャンマー側がやる気をみせてきた」(外務省関係者)との声がある。  背景には、先行するヤンゴン近郊のティラワSEZが初期開発の400ヘクタールに加え、今年2月には100ヘクタールの拡張工事に着手するなど順調に進み「次はダウェーも、との声がミャンマー側にある」(商社関係者)。  また2016年3月の政権交代後、ミャンマー側の推進体制が定まっていなかったが、同年10月には電力省の副大臣をトップとするダウェーSEZ管理委員会が始動。ようやく体制が整ってきたことがある。  ダウェーはタイの首都バンコクから西へ350キロメートルの場所にあり、バンコク近郊の日系企業は南方のマラッカ海峡を通らずにインド・中東へ抜けられる要衝として注目している。  だが、バンコクからタイの国境までは道路が整備されているのに対し、国境からダウェーまでの道路は脆弱(ぜいじゃく)な点が課題だ。タイ側が借款を供与して道路を整備するとの報道もあるが「日本としては承知していない」(JICA東南アジア第四課)という。  ダウェーはティラワに比べ規模が約10倍の2万5000ヘクタールと大きく、開発には時間がかかるとの見方が多い。工業団地の整備に関心のある日本企業も「まずは道路などインフラ整備が先。それがないと手は出せない」(商社関係者)と語る。巨大工事となるだけに、東南アジアや南アジアでよく言われるフレーズ“遅々として進む”プロジェクトになりそうだ。 日刊工業新聞2017年4月7日  ミャンマーでアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)政権が発足してから30日で1年を迎える。政権交代に伴う多少の混乱はあったものの、市場経済化の流れは止まらず、2016年の経済成長率は8%(国際通貨基金調べ)と高い伸びを示した。ただ、企業の進出は前政権時代より鈍り、スーチー氏の経済への向き合い方には疑問の声もある。周辺国と比べ周回遅れの経済を取り戻すには、もう一段の努力が必要だ。  「現地の生活環境がどんどん良くなっている」。ミャンマーに駐在する日系企業関係者は異口同音に語る。日本食レストランだけでも今や100軒以上。双日は22日、ミャンマーの小売り最大手シティ・マート・グループと組み、ヤンゴンの中心部にフードコート形式の和食店「東京・ダイニング・シティ」を仮オープンした。  シティ・マートの経営者は頻繁に日本やシンガポールなどを訪れ「先進国で見た良いサービスを自国に導入する意欲を持つ」(双日海外業務部)。豊かさを求めるミャンマー人のニーズに応え、日々、新しい店舗が開業している。  2011年の民政移管で国を開いたばかりのミャンマーは「グリーンフィールド(未開拓市場)だらけ」(米国人投資家)と言われる。NLD政権に交代後も日本からの企業進出は相次ぎ、ミャンマー日本商工会議所の会員数は3月15日までに348社に達した。  これだけミャンマーが企業を惹きつけるのは1人当たりの国内総生産(GDP)が1300ドル(14万円)と低く、5万3000ドル(約580万円)のシンガポールなどと比べ伸びしろが大きいことに起因する。  今のミャンマーは「放っておいても7―8%の成長が続く」(日本の外務省関係者)と言われ、スーチー政権になって特段、経済が良くなったわけではない。  ミャンマー日本商工会議所会員数の伸び率は13年度に70%に達していたが、スーチー政権になった16年度は18%に低下。テインセイン前政権時代よりも、日系企業のミャンマー熱は冷めている。  スーチー政権は、この1年に国内企業と外資企業向けの投資法を一本化した「新投資法」を制定。1914年以来約100年ぶりに外資の定義を緩めた会社法の改正を進めた。しかし、これはテインセイン前政権から実施してきた外資誘致に向けた投資環境整備の姿勢を継続したもので、スーチー政権になって突如始めたわけではない。  民主化を支えてきた米国が16年10月にミャンマーへの経済制裁を全面的に解除したことはスーチー氏の手柄だ。ただ、制裁というマイナスだった条件がゼロに戻っただけとの見方もできる。  日本企業の中にはスーチー政権になり、「重要案件は全部スーチー氏を通す必要があり、意思決定に時間がかかる」(商社関係者)との声が漏れる。「スーチー氏の最重要課題は少数民族との和平」(外務省関係者)とされる中、どれだけ経済政策に本気なのか疑う声もある。  外国企業は国際比較でミャンマーへの投資を検討する中、政権与党となった今は日系企業からスーチー氏に厳しい目が注がれている。 (文=大城麻木乃) <次のページ、専門家はこう見る> 【政策研究大学院大学教授・工藤年博氏】  ―この1年でミャンマーは何が一番変わりましたか。  「国際社会の見る目が変わった。かつては軍事政権のキワモノ国家というイメージがあったが、今は普通の国になりつつある。しかし、国内的にはテインセイン前政権時代と比べ、劇的な変化は見られない」  ―変化がないことは、国民の不満につながりませんか。  「今のところ、あまり不満の声は聞かれない。軍事政権は半世紀も続いた。国民はすぐに結果を求めてはいないだろう。NLDに代わる野党も育っていない。恐らく2020年の総選挙もNLDが勝ち、25年の総選挙ぐらいからマニフェスト(政権公約)を競う本格的な選挙になるのではないか」  ―地方の低開発地域ほど法人税などを減免する投資優遇制度を4月に施行予定です。企業活動への影響は。  「必ずしも一律に低開発地域を優遇するのではなく、都市部でも一部戦略的な地域は優遇の対象にするようだが、企業の投資に影響を与えるほどの効果はないと見る」  「地方へ投資を分散する意図が見えるが、今の段階で電気や裾野産業のない地方にスタンドアローン(単独で)で投資する企業は皆無だろう。ミャンマーはまず商都ヤンゴンや第2の都市マンダレーに産業を集積させ、インフラが一定程度整い、産業に厚みが出てきた段階で地方分散を検討すべきだ」 【上智大学総合グローバル学部教授・根本敬氏】  ―経済界からはスーチー政権になり、投資の許認可が遅くなったとの声があります。  「前政権までは特定の要人に依頼すれば認可がすぐに下りる場合もあったが、現政権は手続きをオープンにしようと試みている。そのために時間がかかってしまう。短期的な収益を求める企業には好ましくないだろうが、中長期的には手続きの透明化は企業にとってもよいことだ。長い目で見る必要がある」  ―課題である軍との関係はいかがですか。  「この1年で政権と軍の亀裂がはっきりした。典型例が少数民族問題とバングラデシュとの国境沿いに住むイスラム教徒ロヒンギャの問題だ。憲法上、国防相、内務相(警察)、国境相は軍人しか就けず、スーチー氏が軍を差し置いて問題に対処できない。その結果、時にちぐはぐな対応が生じている」  ―今後の行方は。  「スーチー氏も軍との衝突を望んでおらず、バランスを取ろうと努めている。何とか時間をかけながら軍を説得し、憲法改正にもっていくのではないか」  ―スーチー氏は71歳と高齢です。後継者は育っていますか。  「ピョー・ミン・テインヤンゴン管区首相の人気が高い。スーチー氏の個人商店の色彩が濃い現政権において、ヤンゴン管区首相は独自の判断で腕を振るっている。ただ、地方でも人気があるかは定かではない」 日刊工業新聞2017年3月27日

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