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東電・中部電、火力全面統合は大再編の号砲。関電はどう動く?

原子力や送配電にも発展か。さらには国を越える
東電・中部電、火力全面統合は大再編の号砲。関電はどう動く?

勝野中部電社長(左)と広瀬東電HD社長

 東京電力ホールディングス(HD)と中部電力は、火力発電関連事業の全面統合に基本合意した。両社が国内に保有する既設の火力発電所を、2019年度上期をめどに共同出資会社のJERA(東京都中央区)へ移管し、すでに移管済みの燃料調達事業や海外発電事業などと合わせて、一貫した統合運用体制をつくる。発電事業のコスト競争力を高め、電力小売り事業の差別化と海外市場開拓を狙う。

 東電HDの広瀬直己社長は都内で会見し、「JERAへの統合をしっかり成功させ、企業価値向上に向けた事業再編・統合のモデルにしたい」と述べた。

 東電グループが保有する火力発電所(合計出力4400万キロワット)と、中部電の火力発電所(同2400万キロワット)を一体的に運用することで、電力の需要変動への対応力を高めるほか、運転コストの低減や設備投資の効率化を狙う。2社合わせると、発電出力が国内全体の半数を超す巨大火力発電事業者になる。

 すでに統合した燃料部門では液化天然ガス(LNG)の調達量が年3500万トンと、世界最大規模の購買グループになった。発電所の統合効果と併せて発電コストの大幅低減につなげ、海外展開も加速する。

 電力の国内需要先細りを踏まえて海外の成長市場開拓に向け、諸外国の巨大エネルギー企業に対抗できる勢力を目指す。

 両社は今後、JERAが再投資の資金を確保できるように、両親会社への配当に上限を設けるなどのルールづくりを進める。親会社の財務が悪化した場合に、JERAに過度な配当を求めるといったことを防ぐ手だても講じ、福島第一原子力発電所の事故処理にかかる費用負担のリスクに歯止めをかける。

 東電側は火力の全面統合で、原子力事業や送配電事業の再編・統合に弾みを付けたい意向だ。

JERAの価値高める


 中部電力はこれまで「東京電力の自立が前提」(勝野哲社長)として火力発電の全面統合には慎重な姿勢を貫いてきた。しかし火力発電所の運営効率化や液化天然ガス(LNG)の供給は中部電にとっても成長戦略の要。慎重な交渉の裏で、全面統合によりJERAの企業価値を一刻も早く高めたいとのジレンマがあった。

 「早く『骨子』を出してくれないと―」。2月、中部電幹部はじれた様子で語った。東京電力ホールディングスの新しい再建計画の骨子の公表が、当初予定の1月から遅れていた。折半出資であるJERAの利益を福島に無尽蔵に回されては「株主に説明できない」(幹部)。中部電は再建計画の骨子に配当割合など一定のルールを設けるよう求めた。

 一方でJERAの規模を生かした効率的な発電所運営といったメリットは中部電の方が大きい。骨子がまとまれば火力全面統合は時間の問題だった。骨子の発表は3月22日。両社はそこから1週間足らずで基本合意した。

 東電HDは送配電や原子力事業でも外部との再編・統合を進める意向を示す。他電力は表向き慎重だが、中部電幹部は「海外で成長を目指すなら(協業の)余地はある」と含みを持たせる。今後は火力以外でも再編機運が生まれる可能性がある。

日刊工業新聞2017年3月29日



「関電による中国電力の買収」の可能性?


橘川教授インタビュー


橘川教授

  原発停止による代替燃料のコストアップは年間3兆円ともいわれており、電力業界は苦境に立たされている。「電力業界とM&A」について、エネルギー産業の動向に詳しい東京理科大学橘川教授に話を伺った。

 ー電力業界の今後の見通しについてお聞かせください。
 「大津地方裁判所の運転差し止め決定により関西電力の高浜原子力発電所3・4号機が停止したことで少しスピードが遅くなると思いますが、もし運転が継続されていたら来年にも次のような話が出たかもしれません。それは、『関西電力による中国電力の買収』です」

 ー戦後の九電体制以降、M&Aはありませんでした。今回の電力自由化と関連はあるのですか?
 「どういうことかといいますと、原発再稼動に対するさまざまな議論はありますが、既存の原発でつくる電気は間違いなく安いのです(編集部注:二度のオイルショックを教訓に石油の代替燃料の一つとして推進されたのが原子力である)。原発代替の火力発電は燃料コストが高く、電力会社の収益は悪化しています。ですから電力各社は必死になって原発を動かそうとしているのです」

 ー原発の再稼動に関する報道を目にする機会が増えています。
 「新聞によると一斉に再稼働するようなことを言っていますが、全然そうではなくて、去年は九州電力の川内原発(鹿児島県)の2基が動いただけでした」

 「大津地裁の決定がなかったならば、今年は関西電力の高浜原発3、4号機(福井県)、四国電力の伊方原発(愛媛県)3号機、そして九州電力の玄海原発3、4号機(佐賀県)の計5基が動き出すのではないかというのが私の見立てでした。つまり、いずれにしても、再稼働にこぎつける電力会社とそうでない会社に分かれるだろうと見ています」

 ー安全審査申請中の16基のうち、合格したのは3原発7基(うち2基は追加審査中)です。進捗に差があるのはなぜですか
 「今申し上げたのは、すべて加圧水型軽水炉(PWR)です。原発には主に2種類あり、東京電力などが保有する沸騰水型軽水炉(BWR)については、まだまだ再稼働は見通せません。早くても来年、場合によっては再来年と思われます。これが電力業者間の競争力の差となって表れてくるでしょう」

 ー先日の熊本地震で原発の安全性が再び懸念されています。
 「原子力規制委員会は、川内原発の運転には支障がないとの見方をとっています。現在大手電力会社の9社が原発を保有していますが、震災直後に原発が停止したため7社が電気料金を値上げしました」

 「値上げを実施しなかったのは、中国電力と北陸電力だけです。この2社の共通点は何かというと、石炭火力に強いことにあります。北陸電力の主力は水力ですが、石炭火力も強いので、値上げをしないで踏みとどまりました。中国電力は石炭火力に強いうえ、最新鋭の原発を島根に持っています(3号機)。関西電力が中国電力を狙うというのは、かなり有力な見方でしょう」

 ー関西電力による中国電力の買収の可能性はどのくらいでしょうか。
 「関西電力は大津地裁の決定で目算は外れましたが、高浜原発3,4号機に次いで1,2号機も、原子力規制委員会から運転再開が認められる見込みです」

 「東日本大震災後もいったん稼動していた大飯原発(福井県)3,4号機も再稼動の可能性が高く、来年度末までに計6基が動く可能性があります。その場合、業績は一気に好転し、他の地域に攻めやすくなります。そうなれば中部電力の大口顧客であるトヨタも取り込める可能性が出てきます。じつは今回の大津地裁の決定で一番ほっとしたのは中部電力だったかもしれません」

 「再稼動が延期されたことで当面は影に隠れますが、関西電力は原発依存度が高く、電源多様化のリスク分散を当然考えています。投資余力が生まれ手元にキャッシュが戻ってきたら、東西(東:北陸電力、西:中国電力)との合併を考えるはずです」

 ー石炭火力に強い北陸電力を買収する可能性は?
 「北陸電力は関西電力とは組まないでしょう。歴史的にみてもこれまでいかに関西電力から独立を保つかが課題でした。関西電力の黒部川第4発電所(黒四ダム)の立地を思い起こしてください。北陸地方の東側まで関西電力が進出しています。もし買収の声がかかったら、北陸電力は中部電力に助けを求めると思います」

 ー買収を阻止する可能性は?
 「中国電力の側からすると、関西電力に買収されるのは面白くありませんから(規模の小さい)四国電力と合併するシナリオが考えられます。四国電力も原発に強く石炭火力に弱い会社ですから、石炭火力に強い中国電力との合併によるメリットは大きいでしょう。場合によっては九州電力も加えた日本海・瀬戸内海・太平洋の三海電力が誕生する可能性も、ゼロではありません」

 「いずれにせよ、原発の再稼動のタイミングや石炭火力の取り込みが引き金となり、今後電力会社間での業界再編が起こると予想されます」

M&A Online2016年05月12日

永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
競争原理が働く普通の産業でも、国内需要が伸び悩む業界では再編と統合が始まる。例えば、日本の化学業界がそうである。かつて地域独占だった電力業界が、電力自由化の波にさらされ、競争原理が働きだした。しかも国内需要は伸び悩む。再編と統合は必然といえよう。今、東電と中部電による火力発電の統合が実現する。関西の雄、関電はどうするか。再編と統合は火力発電にとどまらない。原子力事業と送配電事業にも及ぶだろう。今後は国内だけでなく世界を視野に入れた電力各社による合従連衡が始まる。

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