パワハラと違う“クラッシャー上司”、その厄介な存在

「わかっているよね」「空気を読めよ」などの雰囲気が組織に悪影響

 過剰な労働や命令などで部下をつぶす「クラッシャー上司」に関する本を1月に出したところ、「所属する会社でも起きている」と多くの人々から反響があった。日本各地でクラッシャー上司による被害が相次いでいる。  パワーハラスメント(パワハラ)をするだけの上司と違う点は、クラッシャー上司は仕事ができるという点だ。また自分の行動が業績を上向かせ、組織の利益につながっているという自負が強い。  そのため自分の行いを善と考え、突っ走ることが事態を悪化させている。一方で被害を受ける側も「自分を育てるために厳しいことを言ってくれている」と考えるケースが多い。  さらにクラッシャー上司を生み出す原因は組織にもある。本来、処罰しなければならない人物であってもクラッシャー上司は優秀であるため、組織は利益を優先しその人を処罰できないことがある。  組織の法令順守(コンプライアンス)の甘さに原因があると言えよう。クラッシャー上司とその被害者、組織の3者によるこの関係は日本独特のもので根深い問題と言える。  こうした状況を生み出す原因の一つが共感性の欠如だ。「罵倒されることはつらい」という共感性がクラッシャー上司には欠けている。一方で日本の家族的な組織が持つ一種の甘えも一因となる。「わかっているよね」「空気を読めよ」などの雰囲気が組織に一体感を生み出している。  だが、こうした組織の一体感は若者には通じず、世代間ギャップがあるように思う。終身雇用制度の崩壊やインターネットによる情報公開などで、組織に対する忠誠心が薄らいでいることも関係しているのかもしれない。  こうした状況で組織は似たような人材だけを選別し、登用しようとしている。多くの個人の考え方を組織が統一しようとしており、現在の多様性の考え方と逆行している。  均一な人材を生み出すことは長期的に見ると組織にはマイナスだ。高度経済成長期と異なり、今は大手企業の経営不振やトランプ米大統領の就任など想定外のことが起こる時代だ。こうした出来事に素早く対応するには単一の思想に縛られた組織ではなく、多様性を持った企業が強い。  単一性を崩し、同調圧力やパワハラをなくすには二つの取り組みがカギとなる。一つはコンプライアンスの内容がただのお題目にならないよう現実との解離をなくすことだ。  もう一つは多様性。外国人や女性の役員への登用などが必要になる。同調圧力や選別を行うような環境を排除し、個人の特性や個性に応じて人材を配置する仕組みに変えることがクラッシャー上司を生まない組織の土壌として重要になるだろう。 (文=松崎一葉・筑波大学大学院医学医療系教授)

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