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大手とここが違うよ、中小企業の賃上げ実情

若手確保に必死。残業減らしで相殺も
大手とここが違うよ、中小企業の賃上げ実情

大手各社の回答は世界的な経済の先行き不透明感から小幅となった(15日)

 2017年の春闘は多くの大手企業がベースアップ(ベア)を回答した。中小企業の賃金交渉の本番はこれからだが、賃上げの流れは16年より強くなりそうだ。背景には深刻な人手不足がある。

 城南サービス(東京都大田区)は、3年前から賃上げを実施する。磯収二社長は「中小企業が新卒社員を採用するには初任給を上げるしかない。そして入社間もない社員の給与を上げるなら、ベテラン社員も上げざるを得なかった」と明かす。

 同社が手がけるのは建築設備の工事とメンテナンス。毎年4人前後の新入社員が入社し電気や空調など多分野にわたる技術を磨く。強みを維持するには、多分野で資格や技術を取得できる優秀な人材の確保が不可欠だ。

 賃上げは通常は月額2000円だが、業績に応じて年によっては同3000―4000円実施する。16年度は39歳以下が4000円、40歳以上が3000円と若手の上昇分を厚くしている。磯社長は「優秀な若手社員を確保したい」と狙いを語る。

 鍛造部品メーカーの芙陽工業(大阪府豊中市)は16年春に、昇格分などを除き一律で2%強の賃上げに踏み切り、17年春も「多少のアップを検討中」(田中義治社長)。今のところ「欠員はなく定着率も高いが、近い将来の高齢退職者数を見越した世代交代の布石」(同)とする。

 フォークリフトのフォーク(爪)に特化しており受注は堅調。ただ原材料やエネルギー費の増加、顧客からのコストダウン要請もある。「特別にもうかっているわけではないが社員も税金や年金など給料から引かれる金額が増えている。社員の手取り減は避けたい」(同)。今春は最低でも月額3000円を軸に賃上げを模索する。

 ミズノマシナリー(富山市)は「残業を減らす分を多少ベアとして考えていく」(水野文政社長)方針だ。半導体製造装置関連の加工が忙しく、残業時間が増える傾向にある。今後、残業は「月平均50時間に抑える」(同)考え。繁忙期を中心に派遣社員や「技能実習制度」を活用した中国人実習生を増やすなどして対応する。

 優秀な人材確保のため、中小企業は賃上げ実施に直面する。ただ、世界経済の不透明感やコストダウン要請など諸条件を考えると、それは簡単ではない。
日刊工業新聞2017年3月21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
17日午前時点での連合の第1回集計では、平均賃上げ率(定期昇給を含む)で、組合員数300人未満の中小組合の賃上げ率(同)が2・06%で大手と並んだ。連合加盟組合の平均賃上げと中小の賃上げ率が同率になったのは1994年の3・11%以来、23年ぶり。人手不足が背景にある。ただ、額は平均が6270円で、中小は5139円と開きがある。この20数年のベア積み上げが格差を生んだ。

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