創業130年の老舗企業が太陽光発電のビジネスにこだわる理由

カクイチ・田中社長に聞く。「パネル売らず屋根を借りて価値つくる」

田中社長

 カクイチ(東京都千代田区)が、家庭の駐車場や物置の屋根を借りて取り付けた太陽光発電所の件数は5月末までに1万件に達する。出力は合計で6万キロワット。一つひとつは小規模でも、1万件の太陽光発電所を所有する企業は例がない。「業界に染まらないから普及できた」と語る田中離有(りう)社長に、「太陽光パネルを売らない」ビジネスについて聞いた。 ―「屋根借り」を始めたきっかけは。  「太陽光パネルは高価だ。我々もパネルを売っていたが、顧客が反応しなかった。だからパネル売りではなく、場所を借りるビジネスにした。当社がパネルを所有し、屋根を借りた顧客に賃料を支払う。パネル付き日よけも売り出した。顧客には、パネルの下に自動車や農機を置ける価値を提供する」  ―1万件に営業するより、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を1基作った方が営業の効率はよいのでは。  「メガソーラーは他社がやっており、当社の存在価値はない。我々にはガレージを10万棟売った実績がある。この人脈を生かして顧客に対して価値を高めようと思った。1件1件の営業は、社員を生かすことにもつながる。成約まで時間はかかるが、社員の自信は財産になる」  ―非住宅用だけでなく、出力の低い住宅用の太陽光発電の買い取り価格が今後、1キロワット時24円に下がります。  「買い取り価格が下がっても、やり続けられる事業が“本物”だ。顧客の負担が少ない我々のビジネスなら、太陽光の普及に貢献できる。屋根の太陽光パネルはいざという時、非常用電源にもなる」  ―創業130年の老舗企業が、他社と違う事業にこだわる理由は。  「明治19年(1886年)に金物商として創業し、今はホテル業も水の販売も手がける。1970年代は製造小売業に進出するなど、その時々で業態を変革してきた。多角化しても、どの事業も業界に染まっていない。同業者と同じだと、価値を売れないからだ。当社はモノ売りに固執していない」  ―「使う」価値を売る考えは、新しい経済形態として注目されるシェアリングエコノミー(共有型経済)に通じます。  「シェアを追う発想もない。大量生産した商品を大規模に売るなら宣伝費がかかるが、価値が認められれば宣伝をしなくても広がる。その証拠が太陽光発電所の1万件だ。小さな変革でも、時代の最先端にいたい」 【記者の目/業態変革が長寿の秘策】  カクイチの太陽光パネル付き日よけ「e―hizashi(いいひざし)」を設置すると、自動車や農機を置ける場所を庭に作れる。パネルの設置場所を貸した賃料ももらえる。顧客にはいいことづくしだ。興味深いのは老舗企業でありながら、新事業を次々に仕掛けること。他社をまねせず、業態を変革させるのが長寿の秘訣だろう。(編集委員・松木喬)

続きを読む

関連する記事はこちら

特集