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病院の病床は減らしていいのか。医療介護難民があふれる本当の数字

在宅へシフトの問題点。療養病床から退院できる人は4割に過ぎない
 最近、「療養病床が廃止」「入院から在宅へシフト」といった新聞記事やニュースが目立ちます。読者の皆さんも耳にしたことはないでしょうか。専門的になりますが、病院の病床は、心筋梗塞や骨折など、すぐに治さなければならない病気向けの「一般病床」と、リハビリをしたり、難病や認知症の方が長期間療養するための「療養病床」に分けることができます。

 かつて療養病床に関し「社会的入院」が問題になりました。本当は医療が必要ないのに、自宅で世話できないなどの理由で長期間入院していることが医療費の無駄遣いとの批判です。

 確かに昔は、そうした入院患者さんもいましたが、20―30年前の話です。今は、医療や手厚い介護が必要な患者さんしか入院していません。

 また専門的な話で恐縮ですが、療養病床の患者さんは、医療の必要度に応じ高い順に「医療区分3」「医療区分2」「医療区分1」と分けられています。つまり、何らかの医療処置が必要な方しか入院できない仕組みです。

 国の借金が1000兆円を超える中、国は支出の大きな部分を占める医療費を抑制しようと、今度も療養病床を対象にしてきました。

 医療必要度が低い「医療区分1」の患者さんの約7割は自宅や介護施設で充分ということで、療養病床を約8万床減らせということになったのです。

 ところが、厚労省が実施した調査では、実際に療養病床から退院できる方は3―4割に過ぎないことが分かりました。それは当然です。

 「医療区分1」の患者さんは、経管栄養を行っていたり、意識障害があったり、嘔吐(おうと)や発熱を頻発するような方も多く、24時間の医療体制を敷くことのできない自宅や介護施設では無理です。

 自宅などへ戻れるのが7割でなく4割だとすると、今後の高齢者人口の増加などを考えた際、療養病床は逆に5万床程度増やさなければ、患者さんの行き場がなくなってしまいます。

 また、「医療区分1」の7割を自宅などで診るには、さらに在宅医を5000人、訪問看護師を2万3000人も育成しなければならず、これは非現実的です。

 私が会長を務めている東京都の療養病床の団体で、患者さんに対し「療養病床の削減をご存知かどうか」お聞きしたところ、9割の患者さんやご家族は知らないと回答されました。

 医療費の無駄遣いはなくすべきですが、必要な医療は死守すべきで、今後も国に対し積極的に訴えていきたいと考えています。
(文=安藤高朗・医療法人社団永生会理事長) 
日刊工業新聞2017年3月10日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
病状の程度はあるにせよ、病院にいたいかどうかは患者や家族の意思や希望もある複雑な問題。選択肢が多いことに越したことはないが、「病院経営」や「健康寿命」などテクノロジーである程度解決できる問題もある。

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