ニュースイッチ

論文数など気にするな!産総研、若手に研究費1000万円と裁量権

基礎研究支援で新制度、企業が研究しないテーマに重点投資
 産業技術総合研究所(産総研)は民間では難しいハイリスク・ハイインパクトな基礎研究を中長期的に支援する新制度「エッジランナー制度」を立ち上げる。研究者個人に予算と裁量権を与え、1年間で評価する仕組みを取らず、若手を活性化させる。学術界では応用よりの研究だけでは、画期的な技術シーズが枯渇しかねないと危惧されていた。成果の産業応用を本分とする産総研が基礎や研究者個人への投資を強化することは、研究姿勢の転換点の一つといえる。

 エッジランナー制度では、企業が研究しないテーマに重点投資する。研究成果の評価期間を1年間から数年間に延ばし、研究者1人当たり1000万円程度の研究資金を提供する。

 基礎研究にとっては過去の実績に比べると大きな金額で、研究の自由度が広がる。資金は運営費交付金から捻出する。

 3月中に研究者を絞り込み、2017年度から研究を始める。まずは各研究領域から推薦された人材とテーマから数人に絞り込んでスタートする。人選にあたっては、より挑戦的なテーマを選ぶため、若手の研究姿勢や実績評価に重きを置く。

 研究者にとっては既存技術の応用テーマに加えて、全く新しいテーマに挑戦できるようになる。基礎研究に重点を置いたキャリアパスを作ることで産総研に優秀な人材を集める狙いもある。

 先進国共通の課題として、国の研究機関や大学での研究テーマが実用志向にシフトしている。結果として、短期的に成果を見込めないテーマへの挑戦は難しく、若手が新しい技術体系を立ち上げるチャンスは少なくなっている。

 産総研は「論文数を気にして成果を小出しにする研究姿勢では産業化はほど遠い」(安永裕幸理事)と、新制度の立ち上げを決めた。ノーベル賞の受賞を機に大隅良典東京工業大学栄誉教授が設立した研究基金など、イノベーションを生み出す技術や人材を発掘するための若手研究者の振興が今後、広がりそうだ。
日刊工業新聞2017年3月3日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
産総研は学から産への「橋渡し」が使命で、企業との実用化開発や産総研が技術営業部隊の増強を進めています。その一方で「エッジランナー制度」を立ち上げ、基礎と若手を振興します。ただ、基礎的な研究の将来性を審査するのはとても難しく、大学などでは小さな金額を薄く広くばらまくことが望まれていました。産総研では予算と裁量をドンと与える方式を選びました。若手を選び支援する側にとっても大きなプレッシャーです。大きな芽が育つか、挑戦が始まります。 (日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)

編集部のおすすめ