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個人データは誰のもの?匿名化しても残る不安

消費者は何を容認し、容認しないのか。
 情報化社会を生きる上で、いまやスマートフォンやパソコン抜きの生活は考えられない。電子マネーやポイントカードの普及も目覚ましく、仕事から買い物まで日常の営みのすべてが電子データとして記録されていると言われても不思議ではない。それで暮らしが便利になったとしても、自分に関するデータがインターネット上に日々吸い上げられていることへの不安は拭えない。これにどう向き合えばよいのか。「データは誰のものか」という視点で問題点を洗い出す。

IoT時代の新たな価値をどう活用るか


 IoT(モノのインターネット)社会は多様なデータから新たな価値を生み出す。その先の世界への期待感は大きいが、その一方で「本人を特定する個人データを勝手に使われたくない」という声も聞こえてくる。

 KPMGコンサルティング(東京都千代田区)がまとめた、世界24カ国・約7000人を対象とした消費者意識調査によると、企業による個人データの取り扱いや利用方法について「懸念している」「非常に懸念している」との回答が56%だった。さらにプライバシーに関する懸念を理由にインターネットでは買い物をしないことを決めたとの回答は55%にのぼった。

 企業が無差別的に個人データを収集することについて「消費者は不快に感じ、プライバシーを保護する具体的な行動をとりはじめている」とKPMGコンサルは読み解く。
                 

改正個人情報保護法、5月に全面施行


 わが国では改正個人情報保護法が5月に全面施行される。改正法ではパーソナルデータ(個人データ)を利活用する場合、誰の情報か分からないように匿名化し、技術的に元に戻せないようにすることを求めている。匿名化は必須の技術だが、それですべてが解決するわけではない。

 個人データの提供を消費者がどこまで容認できるかは、プライバシーデータ提供の対価の大きさに依存するとの見解もある。ポイントカードの場合、特典などと引き換えに、企業は個人データを手に入れている。

 消費者が個人データの扱いを明記したプライバシーポリシーに合意し、すべてを理解した上で企業に委ねるのは自由だが、プライバシーポリシーは読んでもよく分からないことが多い。

 KPMGコンサルの調査でも、全体の57%がウェブサイトを開く時にプライバシーポリシーを読まなかったり、ざっと目を通したりするだけで済ませていることが分かる。
                

「役立つ」→「不快」に変容、境界線どこ?


 一方で、この1、2年にプライバシーポリシーを改定するインターネットサービス事業者が国内外で物議を醸している。事業拡大やサービス向上を理由としているが、利用者のコントロールを超えて個人データが活用される懸念が広がっている。

 これに対し、東京大学先端科学技術研究センターの玉井克哉教授は「取得した個人データを生かして利益を得るならば、企業は何をどう使うのかを明確にすべきだ。そもそも契約の中身が分からなければ正常な取引にならない。財産権の問題なのだ」とクギを刺す。

 「身近で役立つ存在」であるべき個人データが、消費者にとって「不快でプライバシーを侵害する存在」へと変容していく。その境界線がどこにあるのかについて、議論を深めていく必要がある。

AIで“賢く”なるデータ


 「データは誰のものか」は、モノづくりの人工知能(AI)活用でもホットなテーマとなっている。AIは多種多様なデータを学習させることで、“賢く”なる。悩ましいのは学習後の成果物である「AIデータモデル」の所有権の所在だ。

 ITベンダーとユーザー企業がデータモデルの分析精度を高めるにはユーザー1社だけでなく複数企業のデータも学習させた方がよい。だがユーザー企業からすれば、提供したデータとともに虎の子の自社ノウハウがベンダーに流出してしまう懸念がある。

 一方、IT企業のAI担当者は「匿名化した学習データはある程度、横展開したい。そこはお客さまと丁寧な議論が必要だ」と語る。この議論はまだ始まったばかりだ。
              


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日刊工業新聞2017年2月22日
原直史
原直史 Hara Naofumi
ECサイトで買い物をしたり、商品を閲覧すると、次々とリコメンド情報が送られてくる。この量と頻度は、以前より急増している感がある。便利さとは裏腹のうっとうしさを感じるのは、このような時だ。今は、ユーザー側ではこのような状況になることをコントロールする術はない。今後、IoTや人工知能が進んでいくとすれば、ユーザー側が自らの情報をコントロールできる機能を提供することを、事業者側に義務づける法整備やルール設定が必要になるだろう。

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