山形県鶴岡市が世界有数のサイエンスベンチャー拠点となった理由

【連載】挑戦する地方ベンチャーNo.14 YAMAGATA DESIGN

宿泊滞在複合施設のイメージ(YAMAGATA DESIGN提供)

 人が人を呼び、地域の中で新たな街ができていく。こうした熱いエネルギーが、山形県鶴岡市で動きだしている。その核となっているのが2001年に鶴岡に開所した慶応義塾大学先端生命科学研究所(先端研)の存在だ。  慶応義塾はこの研究所を「アカデミックベンチャー」と位置付け、この16年の間で大学発ベンチャー(VB)としてヒューマン・メタボローム・テクノロジー(HMT)、合成クモ糸の量産技術を開発したSpiber(スパイバー、鶴岡市)などのベンチャー企業群を生み出してきた。先端研はメタボローム(代謝物)解析の世界有数の研究拠点として成長を遂げ、鶴岡は国内外の研究者らが行き交う土地となっている。  バイオを中心とした大学発VBの活躍とともに、鶴岡が注目される理由は地域主導での街づくりにもある。民間による「サイエンスパーク」整備事業の旗振り役を務めるのが2014年8月設立の「YAMAGATA DESIGN」(鶴岡市)。社長の山中大介氏は「我々はベンチャー企業ではない」と話す。YAMAGATA DESIGNとは地域からのバトンを受け継ぐ「プロジェクト」そのものであるとの思いが強い。  慶応先端研の誕生を契機に本格的に始まったサイエンスパーク計画。新たな「知」の拠点形成に向けて、山形県と鶴岡市がぶれずにタッグを組んで計画を支え続けている。計画全体の敷地は21・5ヘクタール。すでに約7・5ヘクタール部分には先端研、市先端研究産業支援センター(鶴岡メタボロームキャンパス)などが整備されている。このうち未利用の約14ヘクタールの開発を手がけるのがYAMAGATA DESIGNだ。  山中社長は鶴岡とは全く縁がなかった。2008年に慶応大環境情報学部を卒業後、三井不動産に就職。学生のころには鶴岡に慶応先端研があることも知らなかったという。鶴岡とつながったのは、やはり「人」。親友の父親だった先端研の冨田勝所長からの紹介により、新素材で世界への貢献を目指すスパイバーの関山和秀代表執行役と鶴岡で飲んだのが起業への第一歩。これを機に「社会のために生きたい」との信念の下、家族とともに鶴岡への移住を決意した。  14年6月にはスパイバーで働いていた。起業への移行は、サイエンスパーク内での今後の研究開発施設の計画づくりに取り組む中で、自らが「地域主導の街づくり」を掲げる不動産開発・運営会社を立ち上げようと考えたからだ。同年8月にはYAMAGATA DESIGNを設立。設立時の資本金は10万円だった。  16年12月5日。同社はサイエンスパーク整備事業で宿泊滞在複合施設の建築工事に着手した。約14ヘクタールの用地のうち約3万4600平方メートル部分に木造を主体とした客室棟はじめ温泉施設などを整備する。今後は子育て支援施設などの着工も控え、2018年の街開きと同時の開業を目指している。  宿泊滞在複合施設「サイエンスパークヴィレッジ(仮称)」の延べ床面積は約7500平方メートル。同施設の設計は建築家の坂茂氏が担う。客室棟は木造・RC造、地上2階建てで、客室150室を設ける。宿泊滞在複合施設エリアの総工費は約40億円を見込んでいる。起工式後の昨年末には、山形銀行、荘内銀行、鶴岡信用金庫の県内3金融機関と日本政策金融公庫山形支店による総額22億円の協調融資も実施された。  「庄内・鶴岡には若い人の挑戦を応援する素地がある」という山中社長。サイエンスパークは持続可能な社会を目指す場所であり、完成形はないのかもしれない。ただ今後もYAMAGATA DESIGNは地域からの挑戦を続けていく。社会的価値創造に向けて、「圧倒的にリスクを取り続けていく集団」(山中社長)としてこの地に根ざしていく考えだ。  17年1月現在、慶応先端研発のVBは5社誕生している。そのうちの1社、2015年設立のメタジェン(鶴岡市)技術顧問で、VB支援会社のリバネス副社長でもある井上浄慶大先端研特任教授も、鶴岡に魅了された1人。自らは免疫の研究者で、社長の福田真嗣慶大先端研特任准教授のビジネスプランに共鳴し、京都から鶴岡に移住した。今では「鶴岡で起業しよう」と熱く人を呼び込む。鶴岡でのサイエンスパークは「ぶれない行政の姿勢が良かったのではないか」と指摘する。  鶴岡からヘルスサイエンス産業の創出を目指すメタジェンは、腸内細菌の解析によって健康評価・疾患予防を事業とする。ビジネス展開とともに、井上技術顧問は「小・中学生ら次世代の研究者を地域から生み出す仕組みづくりも欠かせない」と持続的な発展への基礎づくりも地域で取り組んでいる。  大都会ではでてこない独創技術が地方で生まれる。そして人が集まり、街が広がる。20年、30年先をにらんで鶴岡からの挑戦はまだ始まったばかりでもある。

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