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次世代がん治療「BNCT」の先導役は関西にあり

新拠点を開設、研究ネットワークの“土台”生まれる
次世代がん治療「BNCT」の先導役は関西にあり

大阪医科大学のキャンパス内で建設が進む「関西BNCT医療センター(仮称)」(完成イメージ)

 がん細胞を選択的に破壊できるがん治療法「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」の実用化が迫っている。研究を先導してきたのが京都大学であり、関西地域は同大学を中心に研究者や関連企業によるネットワーク化も進む。将来的な治療技術の向上や適用部位の拡大も期待されており、“連携の輪”がBNCT発展の礎となる。

 地下1階・地上3階、延べ床面積4017平方メートルの同施設は1階に治療室、2階に陽電子放射断層撮影装置(PET)の検査室を設け、治療室に住友重機械工業製の小型BNCT用加速器(サイクロトロン)を導入する。

 大阪医科大学を運営する学校法人大阪医科薬科大学の植木實理事長は、「国を挙げてがん治療に取り組んでいる。BNCTはこれまで治療が困難だったがんに適応できる可能性がある」と施設を開設する狙いを説明する。

 投資額は約60億円で、日本政策投資銀行と三井住友銀行、池田泉州銀行が55億円の協調融資を組成した。2018年6月に施設を開設し、19年8月に治療を始める予定。年間400―600人の治療を見込んでいる。

 同センターは大阪医科薬科大学が「共同利用型施設」として運用し、京都大学原子炉実験所(大阪府熊取町)や大阪大学医学部(大阪府吹田市)、大阪府立大学BNCT研究センター(堺市中区)などと連携。研究ネットワークの“土台”という位置付けでもある。

 関西地域はもともとBNCTの研究が盛んで、要素技術の研究拠点が集積している。米国で1950年代に始まったBNCTの研究は、60年代になり日本に引き継がれ、京都大学原子炉実験所で500例を超える治療実績を積み上げてきた。

 さらに、がん細胞に集積するホウ素薬剤の研究や治療効果を事前に判定できるPETの研究なども関西地域で進む。

 同センターの設立にもこうした専門家が携わり、運営委員会にも参画している。「同センターを通じて密接な連携を図ることで、BNCTの推進・発展を図りたい」(植木理事長)考えだ。

 現在、BNCTは悪性脳腫瘍と頭頸部(けいぶ)がんを対象にした治験が進んでいる。新施設の整備が医師や看護師、放射線技師などの治療に関わる人材育成にも寄与できる。植木理事長は「がん治療に特化した素晴らしい人材を世界に送り出す」と熱意を語る。
日刊工業新聞2017年2月2日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
「関西BNCT医療センター」が建設される大阪医科大学は高槻市駅前にある立地の良さが特徴だ。また、BNCTは世界でも関心が高いが、課題となるのは設備を運用する人材。このセンターが治療の拠点としてだけでなく、人材を育成する拠点としても期待は高い。

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