「作って終わり」にしない医工連携の儲け方

中小製造業の先行モデル現る。行政も支援充実へ

第一医科などが取り組む難治性メニエール病の治療機器

 中小のモノづくり企業による医療機器分野への参入意欲が高まっている。高性能品を求める市場ニーズや高齢化社会の進展から、今後も持続的な成長が見込まれるためだ。医療機関と製造業を結びつける「医工連携」の関連団体や行政も、開発支援や展示会への出展補助に力を入れる。医工連携で先行する企業の事例から、ビジネスの可能性を探った。  精密切削工具メーカーの東鋼(東京都文京区)は2006年、医療機器分野に参入した。08年秋の米リーマン・ショックの前で、「医療機器へ参入を目指すモノづくり企業も少なく、医師もすぐ会ってくれた」と寺島誠人社長は振り返る。  現在は術具を1本からでも作るなど、きめ細かな対応が評判を呼び、医療分野の売上高比率が約10%まで上昇し「社内に活気が出るなど、変化も起きている」(寺島社長)。  ただ、こうした成功例は少ない。従来、モノづくり企業が医師の指示通りに開発しても、製品化の段階でコスト面や法規制などで折り合わず、壁にぶつかることが多かった。  そこで企業と医療現場の連携支援団体、日本医工ものづくりコモンズ(東京都千代田区)は「製販ドリブンモデル」を提唱する。医療機器の製造販売業許可を持つ「製販企業」が、医療機関とモノづくり企業の間に入り製品化を促す仕組みだ。製販企業は「臨床ニーズの目利き」(柏野聡彦専務理事)に優れており、市場性を見極めながら製品化を判断できる利点がある。  音声合成技術の開発などを手がけるエヌ・エス・エイ研究所(山口県宇部市)は、製販企業のフジタ医科器械(東京都文京区)と連携し、「6分間歩行試験(6MWT)」と呼ぶ歩行試験測定システムの開発に取り組む。  両社の出会いは16年1月、山口県産業技術センターが主催した東京都文京区内の製販企業との事業マッチング会「本郷展示会」が始まり。  ちょうど、山口大学医学部付属病院の平野綱彦准教授から「糖尿病や慢性呼吸器疾患で体が衰える『フレイル』の検出支援にあたり、身体能力を定量的に測定できるシステムが必要」と助言があり、「医療現場で一定の需要が見込める」(エヌ・エス・エイ研究所の岡西信幸社長)と共同開発を始めた。  中小製造業との連携・協業は製販企業にも利点がある。耳鼻咽喉科に特化した製販企業の第一医科(東京都文京区)は、医工連携を通じて行政が技術力のあるモノづくり企業を紹介してくれるため、「スムーズな開発が行いやすい」(小池直樹取締役)と指摘する。  経済産業省による開発支援では、同社がプロジェクトの中心となり、事業管理機関の富山県新世紀産業機構、富山大学、地元企業のハイメック(富山市)などと共同で難治性メニエール病の治療機器開発に取り組む。  医療機器分野では、中小製造業も製販企業も、医工連携支援団体や自治体の支援策を積極的に活用することが得策と言えそうだ。 (文=浅海宏規) 日刊工業新聞2017年1月19日 <次のページ、さいたま市長・清水勇人が語る>  さいたま市には高度な技術力を持つ企業が集積している。さいたま医療ものづくり都市構想は、そうしたさいたま市の技術力の高い研究開発型企業を中心に成長市場である医療機器の分野への新規参入と事業拡大を支援する取り組みであり、2011年度に構想を策定し、翌年度スタートした。本市の成長戦略の一つでもある。  この構想の特徴は、医療機器の分野の中で特に(1)レーザー(2)低侵襲(3)小児を重点分野として設定し、各医学会との連携に積極的に取り組んでいることである。13年から毎年1月、こうした産・学・官・医の連携を活かし、さいたま医療ものづくりフォーラムを開催している。  フォーラムはシンポジウムとショーケースから成り、シンポジウムでは医工連携における関連施策の動向や成功事例の紹介、地域課題の共有と解決に向けた連携促進を目的とする基調講演やパネルディスカッションなどを実施し、ショーケースでは医師や理工系大学によるポスター展示や企業による技術展示を行う。  また、昨年度からは医師と企業のマッチングを行う取り組みとして医師によるニーズ発表会を企画、今年度も1月20日に第5回目となるフォーラムを開催する。  日本全体の成長戦略の柱の一つでもあり、18年には約4500億ドルの市場規模の拡大が予測される医療機器の分野に本市の企業の技術が大いに活用されることを期待している。  国際展開の取り組みでは、さいたま市はドイツ・バイエルン州の二つの産業クラスター(医療機器クラスター、メカトロニクスクラスター)との技術交流を中心に、市内中小企業などの国際展開支援を推進している。  これは日本貿易振興機構(ジェトロ)と連携して11年度から4年間にわたり行ってきたもので、14年には二つの産業クラスターと覚書を締結し、ますますビジネス交流を強化している。昨年度はビジネスマッチングが217件あった。これまでに12件の商談が成約、さらに12件の商談が現在継続中である。  また、新たな試みとして昨年度から、さいたま企業とドイツ産業クラスター企業との合同人材研修をバイエルン州で実施した。ドイツの国家プロジェクトである次世代生産システム「インダストリー4・0」を本場ドイツで学び、同時にグローバル人材の育成を目的とする。  今年度はさいたま企業5社が参加し、「インダストリー4・0」に取り組むドイツ中小モノづくり企業を訪問するとともに、ドイツの技術者と共同での実践的トレーニングが行われた。  11月にさいたま市で開催した産業交流展「BIZ SAITAMA」では、「インダストリー4・0」の中核技術であるロボティックスの専門家がパネルディスカッションを実施、市内の中小企業の生産現場も訪問し、具体的なアドバイスも行った。  さらに経済産業省IoT人材育成事業「スマートものづくり応援隊」でも講義を実施するなど、市内モノづくり企業やモノづくりコーディネーターに最新の情報を提供している。  ドイツ以外の国際展開支援では、成長著しいアジアでの販路開拓を目的に、アジアで開催される展示会にさいたま市ブースを出展し出展企業とアジア企業とのビジネスマッチングを支援する新たな取り組みを昨年度から開始した。  これは、地域金融機関と連携することで、国際展開の経験の少ない企業であっても果敢にチャレンジできる機会を提供するものである。一昨年は香港のメカトロニクス系の展示会へ、昨年8月にはシンガポールで開催された東南アジア最大級の医療機器展示会に市内企業6社が出展し、海外初出展企業にも有意義な商談があった。  モノづくり大国ドイツとの交流深化による技術の切磋琢磨(せっさたくま)を通じて市内中小企業のグローバルマーケット開拓、そして、地域金融機関と連携したアジアでの海外販路開拓により、さいたま市内中小企業などの国際展開の支援を行い、地域経済の活性化につなげていきたい。 【略歴】 清水勇人(しみず・はやと)86年(昭61)日大法卒。松下政経塾卒塾(7期生)。埼玉県議を経て09年5月さいたま市長に就任。現在2期目。資産経営・公民連携首長会議幹事。日本サッカーを応援する自治体連盟会長。共栄大学客員教授。埼玉県出身、54歳。 日刊工業新聞2017年1月9日

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