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赤字病院大国・ニッポン、就任3年目で病院長が黒字化できた理由

「自分や家族の受診したい病院」を全職種で共有
 私が現在の職場である国立病院機構東京病院に院長として着任したのは、2012年4月のことでした。病院は東京都清瀬市にあります。私の、この病院に対する最初の印象は、森に囲まれたホテルを思わせる立派な建物で、何と素晴らしい医療施設だろうと感激しました。

 私が訪れた海外の病院を含めても、ベストだといえる素晴らしさでした。前院長との細かな業務の引き継ぎはないままに、4月1日付で任命され、翌月曜日の4月2日に、新年度の職員への辞令を手渡すことから、仕事が始まりました。

 東京病院は立派な病院ですが、毎年赤字で、経営状況が良くないことも明らかとなりました。

 私は、これまで主に大学の研究室の運営や呼吸器・アレルギー内科学教室の拡充と運営という、どちらかというと小規模のマネージメントに携わっていましたが、組織の運営については自信を持っていました。

 このような立派な施設と実力のある職員が勤務していて、なぜ赤字になっているのか、とても不思議でした。原因を探ってみると、外来患者数が極めて少ないうえに、それに連動して入院患者数も少ない、また救急医療についても消極的でした。

 最近言われるブランディングは、「結核の病院」でした。そこで患者数を増やすために、患者さんの視点に立って受診しやすさを求めました。受付時間を14時までに延長し、中央線方面からのアクセスが悪いことから、武蔵野線の新秋津駅と病院との間にシャトルバスの運行を始めました。

 さらに敷地の一部を、薬局のあるスーパーに貸しました。「結核の病院」というイメージから脱却し、外部の医療機関との連携を充実させるために新たな病院の紹介冊子を作成したり、連携医の増加を図り、患者紹介の手続きの簡略化を行いました。

 信頼度の高い電子カルテシステムを再構築して、DPC(包括医療費支払い制度)に参加しました。

 加えて、救急医療も積極的に行う体制が整い、地域医療の中核病院として貢献できる状況になりました。また、呼吸器領域に関しては日本のトップクラスと呼べる状況になりました。

 全ての職種で共有する心得は、「自分や家族の受診したい病院」ということです。経営は、就任3年目で黒字化に成功しました。当院が将来にわたってさらに発展し、日本の医療に貢献するものと確信しております。
(文=大田健・国立病院機構東京病院院長) 

日刊工業新聞2017年1月20日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
赤字の医療機関は多い。国も2025年に向けて医療機関の機能分化を進める中で、「選ばれる病院」とそうでない病院の選別がますます進む。赤字で当たり前でなく、どう状況を変えるか、その意識が必要だろう。

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