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熊本地震で「避難所内の避難所」が活躍していた

調音パネルメーカー、AURAL SONICの挑戦
熊本地震で「避難所内の避難所」が活躍していた

熊本地震の避難所に設置した調音パネルによる空間は、一般の人にも喜ばれた

 2016年4月の熊本地震発生から数日後、福岡市中央区にある調音パネルメーカー、AURAL SONIC(オーラルソニック)に一本の電話があった。かけてきたのは大阪に住む製品ユーザーで、自閉症の娘を持つ保護者。熊本で多くの人が避難所生活を強いられる中、自閉症などの障がい者で聴覚過敏の人がつらい思いをしているだろうと心配していた。

余震が続く中で


 聴覚過敏は、通常は人が意識しないような小さな音でも苦痛に感じる。電話の主は調音パネルで助けられないかと訴えた。被災地では余震が続いていた。

 社長の古澤秀和は、心配する家族に止められたが、「人助けに悩んでもしょうがない」とパネルを車に載せて熊本へと向かう。

 自閉症の人がどの避難所にいるのか当てはなく、社会福祉協議会などを回った。しかし当初は、住所は分かっても避難場所までは分からなかった。熊本市内の小学校で1人目を見つけてからは、その人脈をたどる。そして熊本県内14カ所、大分県内1カ所にパネルで囲った1人が入れるほどの空間を作った。

 古澤が訪れた避難所はどこも音があふれていた。話し声などの生活音だけでなく、いわゆる「エコノミークラス症候群」対策の体操の声やラジオの音があちこちから聞こえた。

障がい者でなくても


 パネルの空間は静かで障がい者でなくても「落ち着きたい」などと利用する人もいた。古澤は「避難所内の避難所になった。行って良かった」と振り返る。

 古澤は家具産地として知られる福岡県大川市出身。大学卒業後、父が地元で経営していた家具メーカーに入り、タンス作りで木工技術を身に付けた。しかし、その会社が倒産した。知り合いが所有する賃貸マンションで入居者が鍵をなくした際の対応や水道トラブルの解決、退居時の原状回復工事のチェックなどを仕事とした。

住環境を医学的見地から考える


 その後、工務店に頼んでいた原状回復を自分で手がけるようになる。身に付けた木工技術が生きた。徐々に原状回復業務が拡大し、職人を雇うようになった。そして02年に創業したのがオーラルソニックの前身である内装業の「ハウス119」だった。

 内装業者として古澤は、健康を意識した住宅造りのプロジェクトに打ち込む。そこには医師も参加しており、住環境を医学的見地から考える機会が増えた。家具メーカーで働いていたころから塗料や有機溶剤を使う機会が多く、職場で気分が悪くなった経験もある古澤は健康について考えることが多かった。(敬称略)

▽所在地=福岡市中央区天神1の10の17、092・711・0119▽社長=古澤秀和氏▽従業員=5人▽資本金=3988万円▽創業=02年(平14)6月▽売上高=6000万円(16年12月期見込み)▽URL=www.auralsonic.co.jp/
日刊工業新聞2017年1月17日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
段避難所のプライバシーを守る製品や取組みは注目されていますが、音まで注目したものは少ないように思います。ほんのひと時でも、静かな空間に一人でいることが、精神の落ち着きをもたらすのですね。

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