統合型リゾートとカジノ、日本の未来を決めるのはどっち?

<情報工場「読学」のススメ#22>著者・高城剛、シンガポールの成功事例とは

「マリーナベイ・サンズ」(公式ページより)

 シンガポールの観光名所と聞いて、真っ先に何を思い浮かべるだろうか。少し前なら、十中八九「マーライオン像」という答えが返ってきたはずだ。だが今は違う。「マリーナベイ・サンズ」と言う人も多いに違いない。この名前にピンと来なくても、3棟の高層ビルの上に巨大な船がまたがる写真や、市街を見下ろす絶景を背景に、あふれんばかりの水をたたえたプールの画像に見覚えのある人は多いだろう。  2010年にオープンしたマリーナベイ・サンズは、米国ラスベガスのカジノ運営会社、ラスベガス・サンズが運営するIR(統合型リゾート)だ。ホテルを中心に、大型MICE(国際会議場や展示会場、研修施設などの総称)施設、ショッピングモール、劇場、ミュージアム、そしてカジノが一カ所に集まっている。  マリーナベイ・サンズのカジノは、単独としては世界最大規模だという。しかし、マリーナベイ・サンズに賭博場のイメージをもつ人は少数派だろう。それもそのはず、このカジノの占有面積は、IR全体の2.6%にすぎないのだ。しかも、ホテルやMICE施設とは、はっきりと切り離して設置されている。  日本では2016年12月15日、「カジノを含む統合型リゾート(IR)の解禁に向けたIR推進法案(通称・IR推進法案、またはカジノ法案)」が衆議院本会議で可決され成立した。日本にもマリーナベイ・サンズと同様の、カジノを含むIRが誕生する道が開かれたわけだ。政府は1年以内をめどに、設置に必要な具体策をまとめたIR実施法案を策定することになっている。  本書『カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ!?』(集英社)では、こうしたIR推進法をめぐる議論と、そこに至るまでの経緯も踏まえ、そもそもカジノとIRの違いは何か、IR設置にどんなメリットがあるか、成否を分けるポイントなどについて詳細に論じている。  また、シンガポールをはじめとする世界のIR成功事例、ラスベガスやマカオ(中国)におけるカジノ盛衰の歴史などを現地取材をもとに紹介しており、議論に説得力を与えている。  著者の高城剛さんは、バブル時代を知る世代には「ハイパーメディアクリエイター」の肩書でおなじみだろう。プライベートでは、数年前に女優の沢尻エリカさんとの離婚騒動で話題になった。2008年から拠点を欧州に移し、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを中心に幅広い領域で活躍を続けている。  日本でのIR・カジノ設置に対しては、依存症の広がりや生活破綻者の増加、治安の悪化、倫理性などから反対論も根強い。だが著者は、IR導入こそが、日本経済復活の起爆剤になると主張する。魅力的な観光資源として世界中からの集客と、恒久的な高い経済効果が期待できるというのだ。  冒頭のマリーナベイ・サンズの紹介から、カジノとIRの違いはもうお分かりだろう。カジノはIRを構成する一要素にすぎない。IRの大部分はビジネス用途であったり、家族連れでも楽しめる健全な施設だ。その中にあるカジノは、従来の薬物や犯罪にまみれたダーティなイメージからはほど遠いものだ。  シンガポールにおけるIR導入は、2004年に就任したリー・シェンロン首相の肝いりでスタートした。2005年には法律を改正し、2カ所のIRの具体的設置計画を発表。その2カ所の一つがマリーナベイ・サンズである(もう一つはリゾート・ワールド・セントーサで、ユニバーサル・スタジオ・シンガポールが施設に含まれている)。  シンガポールの二つのIRは、日本での反対派の懸念をことごとくクリアしている。マリーナベイ・サンズのカジノの敷地が全体の2.6%にとどまっているのは、法律でIR内のカジノの占有率は「5%以内」と定められているからだ。  カジノは基本的に外国人が対象で、シンガポール国民は1日100シンガポールドル(2017年1月現在で約8,000円)の入場料が課される。もしギャンブル依存症になった場合は、本人だけでなく家族全員がカジノ施設には入れない。2010年には事前予約なしで受診可能な依存症クリニックが国家の施設として診療を開始している。  シンガポール人には信用取引枠を設定。施設内でのクレジットカード使用や貸付行為、ATMの設置は禁止されている。犯罪歴があるなど不適切な者には、警察や国家機関が入場禁止命令を出せる。  また、業者がカジノ設置のライセンスを申請した時点で、経営陣全員の過去が徹底的に調べ上げられる。過去10年にわたる犯罪歴、納税歴、反社会的勢力との関係などが、家族や友人も含め調査されるのだ。こうした厳しい規制や監視により、シンガポールの総犯罪数やギャンブル依存症の発症率は、カジノ導入以前よりむしろ減っているそうだ。  そうした厳しい規制のもと運営されているシンガポールのIR内にあるカジノだが、それでも高い収益を上げており、IR全体の運営を支えている。マリーナベイ・サンズの2015年におけるホテル客室収入は約400億円だったが、カジノの収入は約2500億円とケタ違い。施設全体の収入の8割以上はカジノが占めているという。 <次のページ、地方創生に結びつくIRの魅力づくりの工夫を  日本でのIR設置については、本書に紹介された海外の諸事例などを参考にしながら、国民一人ひとりが賛否、あるいは日本版IRのあるべき姿を考えていけばいいだろう。  ただし、設置するのであれば、シンガポールにならった厳しい規制は導入しなければならない。日本の場合、現状でも賭博がらみで反社会的勢力が暗躍しているからだ。カジノは、あくまでIR運営の財源にあてるツールと位置づけて規制のもとに置き、それ以外の施設をメインに議論していくのがベストだろう。  すでにいくつかの自治体が誘致に手を挙げているが、IR設置にあたっては、都市部で利便性を追求するよりも、地方創生に結びつける視点が重要だと思う。温泉など、すでにある観光資源を生かした魅力づくりに知恵をしぼるべきだ。  本書には、米国で廃墟となった鉄鋼工場の跡地をそのままIRに流用して人気を博しているケースも紹介されている。日本の自治体がハコ物を手がけると、どこも同じようなものになりがちだ。  だが、日本版IRは、いま世界のあちこちで作られているIRと競争していかなければならない宿命にある。差別化の工夫が絶対に必要だ。そうした工夫がさまざまな地方で行われるだけでも、日本全体が活性化していくのではないだろうか。 (文=情報工場「SERENDIP」編集部) 『カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ!?』 高城剛著(集英社 240p 1,400円(税別)

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