ニュースイッチ

自動運転車「今の課題はシステムの電力消費」(トヨタAI子会社CEO)

ギル・プラット氏インタビュー、他社と“分業開発”を加速
 トヨタ自動車自動運転車に搭載する車載システム全般と人工知能(AI)の開発で異業種との連携を強化する方針を明らかにした。燃費性能への影響が少ないシステムの開発を目指す。4日(現地時間)には人の感情を理解するAIを搭載する新コンセプト車を米国で公開した。他社との水平分業を加速し、数年内にAIの機能の一部を搭載した車両の公道実証を日本国内で始める。

 AI研究子会社の米トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI、カリフォルニア州)のギル・プラット最高経営責任者(CEO)が4日、日刊工業新聞などのインタビューに応じて明らかにした。プラットCEOは「今の課題はシステムの電力消費の問題」と指摘。複雑化する車載システムが車の燃費などに影響しないよう、IT企業などと連携して高効率なシステムを開発する方針を示した。

 公開したコンセプト車「トヨタコンセプト―愛i(あい)」は、人の感情を理解して安全な自動運転の実現を目指す。「YUI(ゆい)」と呼ぶAIを搭載する。

 YUIは運転手の表情や動作を認識し、感情や覚醒度を推定。会員制交流サイト(SNS)での発信や車内での会話内容などから人の好みを予測し、運転手の眠気を覚ますために興味ある話題を持ちかける。

 また運転手にブルーライトを当てたり、座席を動かすなどし、人の覚醒度を上げたりリラックスさせたりする。プラットCEOは「人を守る機能と、お抱え運転手の機能の両方を実現する」と、トヨタが目指すAI搭載車の姿を示した。

「AIはパートナー」「今後1年で100人雇用」


 人工知能(AI)を開発する米トヨタ・リサーチ・インスティテュートのギル・プラット最高経営責任者(CEO)は4日、日刊工業新聞などの取材に応じた。概要は次の通り。
プラットCEO


 ―会社設立から1年たちました。
 「これまで100人の従業員を新規に雇用し、50人を日本を中心とするトヨタ自動車から出向などの形で受け入れた。今後1年間で、さらに100人を新規雇用する。トヨタ自動車などと連携し、走行実験やシミュレーションなどを進めている」

 ―新型のコンセプト車を発表しました。
 「自動運転向け以外にもさまざまなAIがあるが、新コンセプト車ならびにAI『YUI』の特徴は、人の感情を理解し、一緒に成長するパートナー(を目指す)ということだ。今後は運転手の車内での体験、生活の質の向上が重要になる」

 ―今後、他社との連携はどう進めますか。
 「現在の最も大きな課題は、消費電力の問題だ。自動運転などで車載システムは複雑化している。現在のシステムは何千ワットもの電力を消費する。システムの電力消費が車の性能に影響しないよう、電力効率の良いコンピューターのメーカーなどと話し合っている」

 ―自動運転を実現する上で、シミュレーション技術をどう生かしますか。
 「例えば車の加速性能を試す試験は、実車での繰り返し試験に限界があり、シミュレーションが効果を発揮する。ただしシミュレーションで走行試験の絶対量が減るわけではない。走行試験の実績を積むことが重要で、それを助けるためにシミュレーションがある」
日刊工業新聞2017年1月6日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
1年前、プラット氏は日刊工業新聞との単独インタビューでトヨタのAI競争力について「データと計算資源に価値があり、AIのアルゴリズム自体にはない。トヨタの年間販売台数は1000万台。1台1万キロメートル走ると仮定すると、直近10年間で販売した車から毎年1兆キロメートルの走行データが集まる。私は将来、世界中のすべての車がネットワークにつながると考える。すべての自動車メーカーが走行データを走行状況や販売戦略、安全性向上などに活用するだろう。TRIではデータの収集法と分析AIの両方を開発していく。これまでトヨタは資源を車づくりに投じてきたが、転換期を迎えている。将来、モノづくりとデータ活用への投資額が逆転することもありえるだろう」と答えている。 自身の中でも競争する部分と協業する部分がより明確になってきているのだろう。

編集部のおすすめ