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【世界に誇るテックベンチャー#01】プリファード・ネットワークス

ディープラーニングの寵児、西川徹社長インタビュー
【世界に誇るテックベンチャー#01】プリファード・ネットワークス

西川社長

 ベンチャーが飛躍する条件は、ずばり“巻き込む力”だ。優れた技術シーズ(種)や画期的な新製品、独自のビジネスモデルを持っているだけでは生き残れない。創業から安定成長期に入るまでの間、何度かデスバレー(死の谷)に直面すると言われるが、自力で乗り越えられる企業はわずか。多くは投資家や大企業など、外部とうまく連携をとりながら前へ進む。注目のベンチャーの実像に迫った。1回目はプリファード・ネットワークス(PFN、東京都千代田区)。

 2014年の設立ながら、協業先はファナックトヨタ自動車、DeNAなど各分野のトップ企業ばかり。人工知能(AI)技術で知られる。とりわけAIが大量のデータで学習する機械学習やディープラーニング(深層学習)に関する評価が高い。

 大量のデータ処理や分析にAIを活用するシステムは多い。PFNは早くからIoT(モノのインターネット)とAIの融合に着目。機械やロボットなど端末(エッジ)側でもデータ処理をする「エッジヘビーコンピューティング」を勝機に見定め、生産性や安全性を高める技術を開発している。西川徹社長に聞く。

ファナックとの協業で資金を得たのは運命的


 ―創業のきっかけは。
 「2006年に立ち上げたプリファード・インフラストラクチャー(PFI)で、機械学習を活用した統合検索プラットフォーム『セデュー』などを扱っていた。だが、機械学習は競合ひしめく世界。何とか独自性を出したいと考えるうちに、IoTの流れが訪れた」

 「IoTにAIを載せよう、しかも大量のデータをエッジ側でも処理できるようにしたら面白いと考えて米シスコに提案すると、シスコの考えと一致して自信を深めた。PFIは外部の資金を受け入れてこなかったが、『ここが勝機。必ず勝つ』と、外部資金を採り入れて事業にスピード感を出す方針に転換するため、PFNを立ち上げた」

 ―分野ごとのビッグネーム企業と連携し創業以降、事業は順調にきているように見えます。苦労はありましたか。
 「PFIを立ち上げたときは資金の問題があった。赤字が出たらおしまい。倒産してしまう。どうしても思い切った判断ができず、会社として新しいことに挑戦できなくなる」

 「当時は『ドラゴンボール』ではないが、身体に重しをつけて動いている感じだった。挑戦できないと魅力的な人材を引き寄せられない。人材が重要と考えているので、どうしたら皆が一丸となれるか、魅力的な事業を作り上げることが不可欠。社会的にも技術的にもインパクトがあるも白い事業をどう作り上げるか。それはいまも課題だ」

 「振り返ると、ファナックとの協業で資金を得たのは運命的で、経営の自由度を得た。成長を最優先にしてくれて、関係も深まり、ロボット分野を切り拓くきっかけになった。ファナックは『成功するまであきらめない』という社風がある。短期的な収益と、中長期的な事業成功を見るバランスが取れることが企業成長につながる。PFNもそうした見方をできるようになった」

変革の波はネットワークが核となる


 ―あらためて、事業にかける思いを。
 「産業構造はこれから先、大きく変化する。自動車は自動運転的な技術が増え、工場も自動化が一層進む。バイオの世界も新たな薬や治療法がもっと出てきて、社会はより便利に、より安全になる。PFNはその社会変革を支える技術を主導的に作っていきたい」

 「変革の波では、ネットワークが核となると考える。ネットワークの中で、我々は機械を賢くするだけでなく、機械同士を賢く協調させたい。そうするとことで機械単体の知能化だけでは達しないレベルの生産性、安全性を確保することができる。その実現に貢献したい」

 「いまのIoTの流れでは、通信に寄りかかる部分が大き過ぎる。通信の負担を減らすことが重要で、エッジヘビーコンピューティングはその一つ。我々は通信の負担を減らす基礎研究にも力を入れている。ベンチャー企業の中ではユニークなのではないか。人材面もレベルを下げずに優秀な人が集まっている。従業員は人ほどで9割が技術者。物理やスーパーコンピューターなどさまざまな得意分野を持つ人がいる。海外の人も多い」

 ―今後の事業展開は。
 「ロボット分野はファナックと協業を進める。産業用ロボットとピッキング技術を組み合わせて、物流や組み立てなどの新市場を開拓する。製造業の未来は、人が機械やロボットに『これをやって』と言うと、『それはこういうことですか?』と詳細を詰めて、ではやってきます、と自動で作業するのが理想となる」

 「人と機械が意思疎通するためには、AIを使いながら機械がコミュニケーションを学ぶ必要がある。そこを目指していく。同様に、自動車分野では自動運転的な技術の確立を進めていく。バイオでも、AIによって大量のデータを分析し、適切な診断方や治療法に貢献していきたい」
(聞き手=石橋弘彰)
【企業概要】
 IoTにフォーカスしたコンピューターソフト、ハードのネットワークの研究開発、販売を手がける。機械学習やディープラーニングを活用し、大量のデータから機械や自動車が自ら学習して知能化する技術を得意とする。
日刊工業新聞電子版2017年1月4日
石橋弘彰
石橋弘彰 Ishibashi Hiroaki 第一産業部
米グーグルや同マイクロソフトといった巨人たちがライバル。だが、西川社長に臆するところは微塵も感じられない。社員のアイデアで、アマゾン主催のピッキング競技会に急遽参加したり、ドローンをシステムに組み込んでみたりと多忙な中でも面白いことを追求する姿勢がある。こうした面が巨人と戦うに足る、優秀なスタッフを抱えられる要因なのだろう。

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