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IoTで2016年最大の話題は、「大規模サイバー攻撃」に「アマゾン・エコー」

来年はIoTプラットフォームや省電力通信ネットワークで主導権争い激しく
IoTで2016年最大の話題は、「大規模サイバー攻撃」に「アマゾン・エコー」

サムスン電子が1月のCESに出展するアマゾン「エコー」対応のロボット掃除機「パワーボット」(同社の発表資料から)

 2016年に産業界で話題の中心となった感のあるIoT(モノのインターネット)。では、世界を見渡してIoT関連でどんな大きなニュースがあったのか。IoTの動向に詳しい調査会社の独IoTアナリティクス(ハンブルク)によれば、同分野で今年最大の出来事は、10月に米国で起きた大規模サイバー攻撃。そして、コンシューマー向けIoTの成功事例として、アマゾンの音声アシスタント機能付きスマートスピーカー「エコー(Echo)」を2番目に挙げている。

IoT時代の弱点あらわに


 前者では、セキュリティーレベルの低い10万台規模のネット接続デバイスがマルウエア(悪意のあるソフトウエア)の「ミライ(MIRAI)」に感染。乗っ取ったデバイスを踏み台にして大量のメッセージを一斉に送りつけるDDoS攻撃でネットインフラ企業、ダインのサーバーがダウンし、ツイッターやアマゾンといった著名企業のウェブサービスが次々に利用不能になった。大量のデバイスがネットに接続されるIoT時代の弱点があらわになった格好だ。

 後者の円筒形をした「エコー(Echo)」は2015年6月に一般向けに米国で発売され、今年に入って英国、ドイツでも販売がスタートした。音声認識率が高く、小型で低価格の「エコー・ドット」の追加投入も手伝って、今年のクリスマスシーズンには前年同期の9倍以上の売れ行きを記録。生産が追いつかず品切れになったほどだ。12月だけで100万台以上、16年通年では400万台近いエコーが販売されたと見られている。

音声制御でスマートホーム


 話しかけるだけでネット通販や検索はじめ、照明機器の操作、音楽の再生、配車サービスへの連絡といったさまざまな操作が行える手軽さが人気の秘密。APIを公開したことから対応する家庭用機器やスマートフォンアプリが増えており、音声制御のスマートホーム、家庭用IoTというパラダイムシフトで中心的な役割を果たそうとしている。

 こうしたエコーの勢いに乗ろうと、韓国のサムスン電子は、エコーの音声アシスタント機能「アレクサ(Alexa)」と連動し、音声で操作が行えるロボット掃除機「パワーボット(POWERbot)VR7000」を28日に発表した。1月5日に米ラスベガスで開幕するCESに出展する。価格は明らかにしていない。

 ただし、アレクサと連動するロボット掃除機は、これが初めてではない。米ネイトロボティクスのWi-Fi仕様ロボット掃除機「ボットバック・コネクテッド(Botvac Connected)」が今年10月に、いち早くアレクサに対応、掃除の開始や停止が音声で指示できる。

グーグルに続きMS、アップルも?


 エコーと同様の機能を持ったスピーカーとしては、米グーグルが今年秋に米国で「グーグル・ホーム」を発売。アマゾン追撃に動いたほか、音声アシスタントの「コルタナ」を持つマイクロソフトも、ウィンドウズ10を内蔵した家庭用の「ホーム・ハブ」デバイスを2017年に発売すると言われている。アップルも音声アシスタントの「シリ」を、iPhone/iPadだけでなく、アップルTVやマックOSに搭載済みで、次はスピーカー機器への市場参入をうかがっているとされる。

 先のサムスンやネイトロボティクスのロボット掃除機にしても、スマホのアプリで操作できるため、必ずしもエコーやアレクサを必要とはしない。だが、仕事をしながら、あるいは料理をしながら、手を使わず視線を向けずに声だけで操作できる利便性があり、しかも、エコーを持っていれば、自分の声という同じインターフェースを介して簡単に指示が出せる。対応機器、対応アプリが増えるに従って、エコーを筆頭に、家庭用IoTのハブ(中核)としてスマートスピーカーの存在感がより高まっていきそうだ。

NXP、ARMなど相次ぎ買収


 そのほか、16年の話題としては、車載半導体トップのオランダ・NXPセミコンダクターズの米クアルコムによる買収はじめ、大型M&Aが相次いだ。NXPは自動車をIoT化する将来のコネクテッドカーでも重要な役割を果たすと見られ、買収額は390億ドルと半導体分野では過去最高。

 そのほか、ソフトバンクが英ARMを320億ドルで買収し、TDKも車向けセンサーやIoT強化のため、約13億ドルで米インベンセンスの買収に踏み切った。また、米シスコシステムズは、IoTプラットフォーム企業の米ジャスパー・テクノロジーズを14億ドルで買収している。

大注目の仏シグフォックス


 スタートアップでは、IoT向けの省電力無線通信ネットワークを手がけるフランスのシグフォックスが大人気。昨年に1億1500万ドルを資金調達したのに続き、16年には1億6000万ドルを調達した。同社は京セラコミュニケーションシステムと組んで、17年2月から東京でIoTの通信事業者向けに、低価格の通信サービスの提供をスタートする予定。

EUデータ保護規則の制定


 さらに、欧州連合(EU)で「EU一般データ保護規則(GDPR)」が4月に制定されたのも特筆される。施行予定は18年5月25日。この規則に基づき、個人データの収集や処理を行う事業者には、適切な安全対策の実施や、セキュリティー突破時のデータ主体や監督機関への報告など、多くの義務が課せられることになる。
2016年12月31日日刊工業新聞電子版
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
2017年も引き続きIoTがキーワードになることは間違いなし。ただ、これまで過大広告気味だったのが、地に足がついていくような形で普及するようになるかもしれません。IoTアナリティクスによれば、IoTプラットフォームや省電力通信ネットワークで企業間の主導権争いが激しくなるほか、マイクロソフト「ホロレンズ」などの投入もあり、IoTと連携した形でAR/VRの実生活での活用事例が増えてくると見ています。

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