トランプは米国の「教育劣化」をどう立て直すのか

「学校選択」の推進など競争の原理を根付かせる?

 米国の大統領選で、必ずと言っていいほど、「教育」が論争の一つになる。レーガン政権時代の1983年、「危機に瀕する国家(A Nation at Risk)」と題した報告書が出され、米国の教育劣化を指摘。国際競争力強化に向けて改革を提言した。以来、各政権は教育問題を重視してきている。  ロナルド・トランプ次期大統領も、9月にオハイオ州クリーブランドで教育に関し、「学校選択」を進める政策に言及。教育庁予算の3分の1程度に相当する200億ドルを、同政策に充当すると語っている。教育ローン返済に苦しむ大学や大学院卒の若者にも言及した。具体的な政策を提示していなかったトランプ氏にしては、珍しいことであった。  米国では、教育に関する権限は建国来、州が持つ。州内は学校区に区分され、学校区の教育委員会が公立学校運営を担当する。住民の公立学校の教育に対する関心は高く、その質の良否は、子弟の教育だけでなく、居住する学校区内の不動産価格にも影響する。  教育予算は州の固定資産税に依存度が高く、景気が低迷する時期になると、美術教師などの解雇やIT機器の購入減少といった事態に発展する。小学校などは、コピー取りといった学校の雑事処理や学校区への寄付集めへのボランティア活動を保護者に要請、保護者もこれに応える。  だが、学校区によっては、学校の荒廃などの問題を抱えるところが少なくないとされる。カリキュラムや教育方法に対する保護者の不満もある。このため、保護者、教師、地域住民などが独自のカリキュラムと、その達成目標、独自の学校運営などを掲げ、州・学校区の認可(チャーター)を得たチャーター・スクールが登場している。  チャーター・スクールの運営費は州から支給され、達成目標の審査がある。1990年代初め、ミネソタ州から始まった動きだが、全米に普及し始め、その数は97年度に428校、04年度に3000校、直近データの14年度では6500校に増加してきている。  米国教育統計センターによると、14年度の同スクール入学登録者数は約252万、公立学校の生徒・学生数の5.1%に上っている。同スクール普及についてはクリントン政権、その後のブッシュ政権も支持してきた。  民間でも教育改革の動きはある。例えば、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏とメリンダ夫人が創設したビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団は小学校の再構築に向け、モデル・スクール援助を行っている。  パソコンの生みの親とされるアラン・ケイ氏はゲイツ氏よりずっと前から子供の創造教育に関与、パソコンを「箱から出して教育に生かす」運動を進めてきた。名門大学を中心とした新卒者を低所得層の多い学校区内校に派遣し、2年間、教師を務める運動を全米規模で進める「ティーチ・フォー・アメリカ」という非営利組織(NPO)もある。  トランプ次期大統領は、クリーブランドでの「学校選択」に関する演説で、チャーター・スクールの推進、私立学校への転校支援策である教育バウチャー(クーポン券)の配布拡大、さらに数学と英語で現在実施しているCOMMON CORE(全国統一学習到達度テスト)の廃止を公言。  11月22日には、次期教育長官に、教育バウチャーの推進団体である米国児童連盟委員長で、チャーター・スクールの強力な支持者でもあるベッツィー・デボス氏を任命した。デボス氏の夫は、アムウェイの創業者一族で、06年のミシガン州知事選に共和党候補として立候補した人物。デボス夫妻は、慈善家としても有名だ。  大統領選で、トランプ候補支持ではなかったデボス氏の教育長官任命では、インディアナ州知事として、教育バウチャー配布など教育改革に熱心だった次期副大統領のマイク・ペンス氏の助言が影響したとみられる。  ただ、チャーター・スクールの立地先はカリフォルニア州など西部が37%を占め、都市の学校区内が約57%と偏在している。教育バウチャーの対象となる私立学校の立地もまた都市中心だ。「トランプ大統領誕生」の原動力になったとされる地方の白人労働者層の居住地域とは、重ならないケースが多そうだ。 (文=中村悦二)

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