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グローバル・ブレインのICTベンチャーファンド、国内外から熱視線

クールジャパン機構やJTB、海外機関投資家も出資
グローバル・ブレインのICTベンチャーファンド、国内外から熱視線

百合本安彦社長

 ベンチャーキャピタル(VC)のグローバル・ブレイン(東京都渋谷区、百合本安彦社長)は9日、革新的ICTベンチャーの創出・支援を目指すファンドを立ち上げたと発表した。運用総額200億円程度の「グローバル・ブレイン6号投資事業有限責任組合」で、戦略的有限責任組合員(LP)出資者として、クールジャパン機構、JTB、三井住友銀行が参加する。

 さらに、同ファンドのLP出資者に名を連ねているのは、住友林業、電通国際情報サービス、KODENホールディングス、KDDIのコーポレートベンチャーファンド「KDDIオープンイノベーションファンド」といった企業や大学、海外機関投資家など。初回の募集期限(ファーストクローズ)を12月末とし、約150億円で運用を開始。17年6月末に上限の200億円で最終クローズする。運用期間は26年11月末までの10年間。

日刊工業新聞電子版2016年12年10月



百合本氏インタビュー


 ベンチャーをめぐる投資状況は2015年秋より失速しつつある。優良案件に投資が集中する“選別傾向”が強まっている。独立系ベンチャーキャピタル(VC)「グローバル・ブレイン」は他社に先駆けて選別投資を開始し、ベンチャー企業と二人三脚で成長をサポートしてきた経験を踏まえ、この状況を「チャンス」ととらえている。今後成長が期待される分野や、東南アジア、北米、インド、イスラエルなど世海外での展開について、百合本安彦社長に聞いた。

ベンチャー投資の潮目が変わる


―国内外でベンチャー企業に注目が高まっていますが、最新の状況は。
 昨年米国の実質金利ゼロの政策が終わり、その前後でチャイナショックがあって株価が不安定になりました。それまではベンチャー投資も順調に伸びていたのですが、昨年秋口から潮目が変わり、米国は完全に減速傾向。「ユニコーン」と呼ばれるベンチャーでも結構シビアな状況になっています。シリコンバレーでも新規投資が出にくくなり、選別投資が進んでいます。東南アジアでもまったく同じ状況です。

 日本でも実は同じ。ファンドはたくさんできていて資金供給量は増えているのですが、時価総額が高くない、売り上げがしっかりあがってきているベンチャーに投資が集中しています。VC同士の争いも激しくなっています。わが社はもともと選別投資を続けてきたので、この状況をチャンスととらえています。東京五輪・パラリンピックに向けて2017~18年に大きな波が来ると思っているので、新ファンドなどの準備を進めているところです。

―米ツイッター社の経営が厳しくなるなど、アメリカでは業界によってかなり状況が変わってきているように思います。
 業界、分野もそうですが、IPOの案件も少ない。一方、IoT(モノのインターネット)やセキュリティー、バイオ、AI(人工知能)、ビッグデータ分野などは結構資金が集まってきています。当社では潮目が変わったことをいち早く察知していました。去年の秋口までは相当積極的に投資をしていたのですが、今は基準を高くし、さらに選別投資をきちっとしていくという姿勢です。

 一時期、時価総額がかなり高くなったベンチャーで売り上げが上がっていないところは、さらに次の資金調達が難しくなっていると思いますね。

―国内と海外でのベンチャー支援の違いは。
 日本は資金供給のみをベースとした支援、いわゆる「ハンズオフ」が多いですね。一方、当社は経営者と二人三脚で経営に参画していく「ハンズオン」がほとんどです。だいたい他社だと20%くらいですが、90%がハンズオン。ハンズオフだと投資先が好調の時は何もしなくても利益が上がりますが、不調になると成功確率が下がってきます。今、ベンチャーをとりまく環境が鈍化している中で、VCとしてどうマネジメントしていくかが問われています。

―ハンズオンで丁寧に経営を見ていこうとすると、それなりに手間も時間もかかります。それを費やしてでも成長が見込めそうな良質企業をどう見つけているのでしょうか。
 日本でVCに在籍しているのは金融関係者が多いですが、当社は事業会社出身者がほとんど。メーカーの技術職やコンサルティング会社出身、新規事業立ち上げ経験者などが多いので、技術系ベンチャーでもしっかりと評価ができる。ここを強化しないとハンズオンは難しいでしょう。

韓国、イスラエルなどに注目


―ポートフォリオを見ると、日本の他にアジアや米国、アフリカなど幅広く投資していますね。
 70%は日本です。日本のベンチャーをしっかり支援し、海外に持っていくのが使命だと思っています。一方で海外に展開する日本のVCはほとんどいない。当社では例えば、ソウルのグーグルキャンパスに入って韓国企業の日本進出をサポートしています。東アジアでは台湾、香港にも進出。そのほか東南アジア全域、オーストラリア、ニュージーランド、インド、イスラエルでも投資を始めています。ヨーロッパにも近々に進出する予定で、ワールドワイドで投資ができる環境ができてきます。

―各国、各地域の中で一番ポテンシャルがありそうなのは。
 韓国ですね。韓国政府が現在ベンチャーの海外進出のために100億円のファンドを作っていまして、日本進出支援に当社が選ばれました。約20億円出資を受け、これを機に韓国支部を作って人を増強しました。

 韓国は技術力が高いんです。米国で昨年開催された「ダーパ・ロボティクス・チャレンジ」でも韓国チームが優勝。技術力を持った学生たちがサムスンやLGに入るのではなく、起業しはじめています。また、米国にMBA(経営学修士)を取得しに行き、現地の大企業で何年か経験を積んだ後に帰国して起業、さらにシリコンバレーに進出というパターンも多い。日本よりずっとグローバルに動いています。IoTやAIなんかにも力を入れていますね。

―イスラエルというのも、最近投資先として名前がよく出てきます。
 現在当社の投資先は1件ですが、これから増えると思います。イスラエルはセキュリティーやAIが強いので、注目しています。

 海外企業を紹介し投資を促す「インバウンド」と呼ばれる活動もしていますが、むしろ我々から積極的に海外企業を発掘し先行投資する「アウトバウンド」を強化しています。

―そのために海外の人脈開拓や地道な関係性の強化も必須ですね。
 このあたり、他社は面倒くさがってやらないんですけど、我々は面倒くさいことが大好きなので(笑)基本的に他社がやらないことをやることを心がけています。

<次のページ、ロボティクス、セキュリティーなど注目>

日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
2010年頃までは、ベンチャーファンドの出資者といえば金融機関が大半でしたが、ここ数年は事業会社が主体のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)や海外機関投資家などの割合が増え、顔ぶれが多彩になってきました。実業を知る事業会社がLPとして加わることは投資先企業にもメリットがあるでしょう。

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