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天文学と機械学習の遠くて近い関係

GEが買収したワイズ・アイオー。両者の関係はどのように深まるか
天文学と機械学習の遠くて近い関係

超新星となっていく恒星が作り出す惑星状星雲(Getty Images提供)

 11月中旬に米ゼネラル・エレクトリック(GE)はワイズ・アイオー社の買収を発表した。機械学習やインテリジェントシステムのリーディング・カンパニーであるワイズ・アイオー。その事業のスタートは、夜空の星たちを観察することだった。
 
 遡ること2008年、当時カリフォルニア大学バークレー校で天文学を教えていたジョシュア・ブルーム元教授は、数十万枚に及ぶ夜空の望遠鏡画像を読み解くのに悪戦苦闘していた。

 夜空の画像はどれも黒い写真に白い粉をまぶしたようなもので、肉眼では判別がつかないほどの違いしかなかったからだ。

 このことを統計学やコンピュータ・サイエンスの同僚に話したところ、機械学習ソフトウェアを使ってみたらどうかとアドバイスされた。大量のデータを数秒で処理し、答えを導き出す強力なアルゴリズムで構成されたソフトウェアだった。

ソフトで強力な望遠鏡が完成した


 そのアドバイス通り、写真の中に写った無数の白い点たちをソフトウェアで解析したところ、白色矮星と他の奇妙な星々のような「宇宙でも非常に珍しい現象ですら把握できるような、強力な望遠鏡が完成した」とワイズ・アイオーの最高責任者ジェフ・アーンハート氏は言う。

 この時きっと、ブルーム元教授には未来が見えたのではないだろうか。その後、アーンハート氏と一緒にワイズ・アイオー社を創設し、今ではバークレーを拠点とするこの企業のCTO(最高技術責任者)を務めている。

 現在ワイズ・アイオーは、機械学習や人工知能の技術を天体観測だけでなく地上での課題解決にもあたっている。そして、銀河のような大量のデータをビジネス界や産業界の人々が理解できるよう支援する極めて精巧なソフトウェアを開発している。

 このソフトウェアでは、まず過去のパターンをマッピングして予測モデルを構築。さらに、できあがったモデルは、最新情報に基づいて絶えずアップデートを重ねていく。

 こうしたソフトウェアを巨大な産業用機械に組み込むと、「それまで実現可能かどうかさえ分からなかったレベルの効率化を導ける」とアーンハート氏。

150億ドルの収益をもたらす


 では、その経済効果はどれくらいなのか?―。GEは、ワイズ・アイオー社のものを含むソフトウェアや分析ツールが2020年までに150億ドルの収益をもたらし、そのうち10億ドルは「オペレーションの効率化」がもたらすものになると試算する。

 今後、ワイズ・アイオーはインダストリアル・インターネット用のPredixプラットフォーム上でGEが提供している機械学習アプリを強化していく予定。

 例えば、機器のデータを収集してサイバー空間にバーチャルなコピーを作る「デジタル・ツイン」もそのひとつ。このテクノロジーを活用することで、エンジニアはさまざまなシナリオをテストしたり、機器の保守・修理、稼働のタイミングを判断したりすることがでるという。

 また、ワイズ・アイオーの機械学習によって、今後は人間が介在しなくても様々な判断を自動的に下すことができるようになっていく。

 最初に星空の画像を分析した時と同様、人間には気づかないパターンをワイズ・アイオー社のソフトウェアが見つけ出し、自ら決定を下したり、急な変更を加えるといったことが可能になる。

(シリウス連星系の中のシリウスB<右側>のような白色矮星を分類)

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ワイズ・アイオーはグーグルなど米の大手テック企業にもサービスを提供してきたといわれている。買収額は気になるが、GEの目の付け所はさすがだし、Predixプラットフォームへの怒濤の投資は凄まじいというしかない。

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