小室淑恵さんと考えるワーク・ライフ・バランス

「女性だけの問題じゃない。働く人すべてに関わる問題です」

 ギリシャ、イタリア、スペイン―。財政危機に見舞われたこれらの欧州各国が示すのは、女性労働力率が低く、かつ少子化が進んだ国がこうした末路をたどるという現実だ。同様に少子化に歯止めがかからず、出産や子育て期の女性労働力が大きく落ち込んでいる日本。そこで経済産業省が女性の就業促進と経済成長の両面から、起業環境整備の必要性を打ち出した。その意義、課題について、自身も起業家であり、一児の母であるワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんと考えてみた。  【経済成長・就業促進-白書で指摘】  政府が4月末に決定した「2012年度版中小企業白書」。人口減に伴う市場縮小が進み、新たな内需掘り起こしを迫られる日本が成長を遂げるには、「多様化するニーズをすくい上げ、需要を生み出す女性の事業活動」の潜在力を生かすべきだと指摘している。    女性が起業することで生まれたビジネスには、家事や育児と仕事の両立など自身が就業時に直面した課題解決から生まれたサービスも多い。起業が増えることによって、これらサービスが充実すれば、女性の就業に拍車がかかり、さらに新たな個人向けサービスを生み出すことが期待される。  実際、日本の女性の非労働力人口は約342万人。就業を希望しながらも求職しない最大の理由は「家事、育児のため仕事を続けられそうにない」が全体の30%(総務省2010年労働力調査)に上る。育児の分担割合も末の子が1歳未満の場合、妻の育児分担割合が80%以上というデータ(国立社会保障・人口問題研究所の全国家庭動向調査)もあり、家事や育児負担の偏重が女性を労働市場に誘導できない理由になっている。   【柔軟な発想がビジネス生む】  日本政策金融公庫総合研究所の「新規開業実態調査」によると、起業家全体に占める女性の割合は00年以降、15%前後で推移。女性の起業分野をみると、個人向けサービス業が全体の70%を超え、男性起業家の55%を大きく上回っている。  こうしたデータを基に白書では女性の起業を促す環境整備によって「起業」→「潜在需要の顕在化」→「起業」という「好循環」が生み出されると指摘。「既存の内需を奪い合うのではなく、新たな内需を掘り起こすことで市場創出を目指す。こうした女性起業家の柔軟な姿勢は中小企業にとってよい手引きとなる」と結んでいる。 【ワーク・ライフバランス社長・小室淑恵さんインタビュー「子どもの教育に不安、そこにニーズがあります」】 ―女性の就業支援やワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭生活の両立)は、厚生労働省や内閣府が旗振り役でした。経済産業省が成長戦略の観点からアプローチしたことをどうみますか。  「私はワーク・ライフ・バランスも就業支援も経済産業省が主導すべきテーマだと訴えてきた。いずれも経済活動や企業戦略と直結する課題だからだ。日本企業は想像以上に労働力人口の減少の影響を受けていることを実感する。団塊世代の大量退職にもかかわらず、新卒採用を抑制した結果、現場では中堅世代に業務負荷が集中して生産性低下が著しい。新たな労働力をどこに求めるか、真剣に考える時だ」 ―停滞する日本経済をいかに活性化するかという視点で女性の就業に着目した点を評価する声があります。しかし、企業内の体制整備が途上にもかかわらず一足飛びに起業にフォーカスすることには違和感もあります。  「女性労働力を生かして経済成長を実現するまでの時間やエネルギーを考えれば起業支援が効果的と考えたのではないだろうか。女性の就業支援に対しては、経済界の一部にいまだ消極的な面があることは否定できない。企業内の体制整備はもちろん、長期的視点で粘り強く取り組んでもらいたいが、価値観の違いを背景にした不毛な駆け引きに時間を空費するより、(起業支援という)別のアプローチが有効という見方も一理ある」  ―具体的には。  「例えば、企業における女性の活用をどんなに後押ししても、女性の就労促進につながる商品やサービスが普及するまでには時間がかかる。開発者が組織の中でそれなりの地位を獲得して、事業化の決定権を持つまでのプロセスを待たなければならないからだ。潜在的なニーズがビジネスとして花開くまでのスピードを考えれば、起業の方が圧倒的に早い。私自身、自分の考えた事業を迅速に提供することを重視したため、資生堂から起業することを選択した」  ―女性の就業促進につながる潜在的なサービスにはどのようなものがあると思いますか。  「個人的に期待するのは幼少期の子どもの教育に関するサービス。女性がキャリアをあきらめる背景のひとつとして、『教育』の問題が根深くある。働く女性には、子どもの教育に十分な時間を割けないことに対する強い危機感がある」  ―確かに保育園はあくまで「保育の場」。学童保育事業への民間参入も活発とはいえません。  「自分が働いていても、極論すれば子どもの将来を犠牲にしない、そんな教育環境に対するニーズは強いと感じる」  ―その裏には企業のグローバル化があると。  「日本企業はし烈な国際競争にさらされており、子どもたちが将来、放り出される“荒海”がいかに厳しいかを社会に出ている女性は身をもって痛感している。子どもの将来に備え、自分はいま何ができるかを考えた時、(子どもの教育を理由に)仕事を辞める道を選択せざるを得ない状況を救うようなビジネスを女性起業家の視点でどんどんつくり、女性の就業継続にも、将来を担う子どもの教育にも貢献してもらいたい」

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