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出荷量は2年前の2倍以上!「獺祭(Dassai)」世界を照準にブランド広げる

旭酒造社長・桜井一宏に聞く「日本酒の新しい世界を開拓」
 純米大吟醸酒「獺祭(だっさい)」で知られる旭酒造(山口県岩国市)。桜井一宏社長は、倒産の危機にあったこの酒蔵を、世界に名を知られる酒造会社へと一代で生まれ変わらせた桜井博志会長の長男。2006年に入社後は海外への販路拡大などに努め、9月28日付で社長に就いた。獺祭ブランドをさらにどう広めていくのか聞いた。


 ―「獺祭」は最近ようやく品切れが解消し、店頭でも見かけるようになりました。直近の出荷量と業績は。
 「16年9月期は売り上げが107億円、出荷量は約2万6000石(約4690キロリットル)。うち海外への出荷は約1割だった。1年で約65%の増収、出荷量は2年前に比べると2倍以上に伸びた」

 ―すごい成長です。
 「この生産増を達成できたのは、15年4月に本社蔵の建て替えが終わり、最大生産能力が年間5万石(約9000キロリットル)に増えたため。ほかにも出荷センターの整備など周辺能力の増強や原料米をうまく確保できたことなどがかみ合った成果。社員の手で年間を通じて仕込む生産体制のため、増産対応もしやすい」

 ―最高の状態で社業を継いだことになります。どう独自色を出していきますか。
 「これまで獺祭は“おいしい日本酒”という市場をみずから作って、それを取ることで伸びてこれた。作った分だけ売れるような状況は変わり、いずれは一見踊り場のようになるかもしれない。しかし、お客さまの幸せのためにおいしい酒を造るという基本はブレさせない。日々、昨日より少しでもいい酒を造るつもりでないと、ブランドは絶対に保てない。その上で、獺祭ならではの世界をさらに広げていきたい」

 ―会長は出荷の半分を海外で売りたいと言っていましたが、海外展開の方針は。
 「ここ数年の出荷を見ると、国内市場にも勢いがある。国内外で半々というのは、いずれはそうなるかもしれないが、時期は分からない」

 ―17年春にフランス人シェフのジョエル・ロブション氏と、共同出資でパリに出店します。
 「ロブション氏側から声をかけてもらった。フランスの食文化と本気でタッグを組むことで日本酒の新しい世界が広がり、そこから新しい市場もできていくはず。ワインが広まったのも、同じように自らの世界を広げてきたことが大きい。中長期的には、おいしい日本酒は海外でまだまだ伸ばせるはずだ」
(文=広島・清水信彦)
【略歴】
桜井一宏(さくらい・かずひろ)03年(平15)早大社会科学卒、同年平和入社。06年旭酒造入社、07年常務、13年副社長、16年9月社長。山口県出身、40歳。

日刊工業新聞2016年11月22日



2年前、旭酒造元社長(現会長)・桜井博志氏はこう語った


 

危機を乗り越え成功を収めた桜井博志社長に、この先の戦略を聞いた。

 ―獺祭がここまで成功した理由は何ですか。
 「時代がよかった。社長就任がもう10年早くても遅くても難しかった。酒の流通自由化や宅配便の整備により、地方の酒蔵でも東京向けに商売をすることが可能になった。もし、あと4年遅かったら、この酒蔵はつぶれていただろう。獺祭は大吟醸酒としてはリーズナブルな価格で、それなりに意味のある商品だということではないか」

 ―今の状況をどう見ていますか。
 「獺祭を“幻の酒”にする気はないと言って一生懸命つくってきたが、2010年くらいから需要に供給が追いつかなくなってきた。生産設備や最近ではコメ不足の問題で商品不足が続いている。こういうことでは非常に危ない、会社がおかしくなりかねないと思っている」

 ―5万石への生産能力増強を進めています。
 「おそらく5万石すべてを国内で売るのは無理。なるべく早い時期に半分を海外で売りたい。固く見ても1万石は海外で売れるだろう」

 ―それだけのニーズはあると?
 「あると思う。我々がこれまで獺祭を伸ばしてきているのは、単に日本酒の市場で伸びているだけではない。ワインやビール、焼酎などを含む中で売ってきた。プレミアムビールの好調さで分かるとおり、食事に合わせてちょっと高くてもおいしいお酒を飲みたいお客さんはたくさんいる。そういう人たちを開拓していけばまだまだ伸ばせる。海外でも同じことが言える」

日刊工業新聞2014年9月22日

昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
旭酒造は米「山田錦」の安定調達で富士通と協業。農業にICTを取り入れ管理しています。2年前は売っているお店が限られていて、入荷してもすぐ完売という品薄ぶりでしたが、最近はよく見かけるようになりました。甘く香りが豊かで、よく磨かれているものは特に、日本酒をあまり飲まない人でも楽しめるお酒です。

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