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女性活躍に地域格差。「1割程度しか管理職を希望していない」現実

地方の上場企業や中堅企業には人材層薄く。ロールモデルが必要に
 従業員301人以上の企業に女性管理職割合などの数値目標や行動計画の策定を義務づける女性活躍推進法の施行から半年余り。計画の届出率は全国で99%に達する一方で、地方の上場企業や中堅企業の間では管理職を目指す人材層が薄く、達成の道筋を見いだせないケースが少なくない。「ロールモデル」がそもそも少なく、社外ネットワークを通じた「刺激」も受けにくい地方特有の実情が背景にある。実情を打開しようと「地域発」の動きがじわり広がり始めている。

「イメージがわかない」との声


 「女性社員のうち1割程度しか管理職を希望していない」―。兵庫県の上場機械メーカーの人事担当者はこう話す。8月に実施したアンケートで管理職を希望しないと回答した理由のうち、予想以上に高かったのは「イメージがわかない」との声。同社では女性の係長は誕生しているものの、課長職以上の女性管理職はゼロ。こうした社内の実情が意欲の低さにつながっているのではないか―。経営側はこう考えている。

 別の広島県内の上場企業の執行役員も「女性の活躍推進を掲げる政府方針は理解できる」としながらも当事者である女性社員がそれを希望しないと嘆く。この企業では、育児休業期間の延長や時短勤務制度といった環境整備を通じ、女性社員の定着率は上がったが、「管理職を目指す女性が増えたわけではない」(執行役員)。「細く長く働く」ための支援と「管理職になる」とは、別問題ということが浮き彫りになった。

 管理職としての可能性を秘めながらも、当事者が登用や昇進を望まない裏には、地元出身比率が高く、転勤を望まないことや近隣に住む両親の助けを借りて仕事と育児を両立しているケースが多いことなどが考えられる。

 「あえて現状を変えたくない」との意識に拍車をかけるのが身近なロールモデルに乏しく「自身の姿がイメージできない」との声だ。経営側からは「女性社員の深層意識をどう把握すればいいのか」といった戸惑いも聞かれる。管理職のなり手がいないことから「他社で活躍する人材をスカウトすることを視野に入れている」との声さえある。

 懸念されるのは、他企業との交流機会やロールモデルに恵まれる都心部の先進企業との格差拡大だ。「活躍」に対する意識の向上やそれに向けた環境整備は、1社で進められる取り組みに限界があるため、同じ課題を抱える企業間の連携が欠かせない。


“女性として”の観点や甘えを捨てる


 元・日本IBM専務執行役員の内永ゆか子さんが自身の経験を生かし、企業の女性幹部や候補生の相互交流、研さんのための任意団体として「J―Win」(東京都千代田区)を立ち上げたのは11年前。当初、50社で始まった活動は今や会員130社を超える。職位別に三つのネットワークを形成し、女性管理職やその予備軍が業種や業態の枠を超えて交流するのが特徴だ。

 2013年には役員目前の女性を対象とした少数精鋭による特別プログラムも開始。経済同友会会員など財界トップが協力。経験に裏付けられた経営者のビジネスマインドや人間力に触れることができる貴重な機会だ。46人の卒業生から4人の執行役員が誕生している。「“女性として”の観点や甘えを捨て、真に組織のリーダーとなるうえでの覚悟や“胆力”を鍛える」。狙いについて内永さんはこう語る。

 ただ、これら充実したネットワークに参加できるのは地理的に都心部の企業が中心なのが実情だ。政府が女性活躍推進の旗を振る一方で、研さん機会の多寡によって当事者である女性の意識格差が広がりはしないか。内永さん自身、地方でのネットワークの充実の必要性を指摘する。

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日刊工業新聞2016年11月15日
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
ロールモデルの重要性が指摘されますが、確かにいない。仕事に対する姿勢や生き方。理想を体現する存在を私自身も探しています。

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