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ドイツの製図ペンから絵画やイラストを描くアートな人

ロットリング「点描も斜め線も、一本のペンでさまざまな描き方ができる」
ドイツの製図ペンから絵画やイラストを描くアートな人

岸勇樹さん

 ドイツの製図ペンメーカー「rOtring(ロットリング)」は、80年以上プロのクリエイターやエンジニアに愛される製図ペンを提供し続けている。安定性や使いやすさ、いかにもドイツの工業デザインといったスタイルがウケてきたが、最近は日本でも文具ブームが訪れ、プロだけでなく一般の消費者にもユーザーが広がっている。ロットリングのユーザー代表として、ロットリングの製図ペンを使い絵画やイラストを描く、新進気鋭のアーティストである岸勇樹さんに話を聞いた。

 -芸術作品を手がけたきっかけは。
 「大学時代に製図を書いていました。街の図面などでは植栽を書きます。普通はありもので済ませる人が多いに、私は手書きで一本ずつ書いていました。細かいものを丁寧に書くのが好きだったのです。先の進路を考えるときに、『細かい作業をコツコツずっと続けることができる』という得意技が生かせるという観点から、ペンを使ったアートをやろうと考えました」

 -アートを学んだ経験がなかったとのこと。怖くなかったですか。
 「そこは運が良かったと思います。美術学校に行っていなかったので、評価の外、ジャンル外からスタートし妙な恐れを抱かずに済みました。一方で自分には根拠ない自信がありました。友人や両親も止めることはなく、応援し暖かく見守ってくれました。良い環境だったので、思い切って踏み出せたのです。母はキッチンデザインを手がけていたので美術への抵抗がなかった。父親は逆にシステムエンジニア(SE)でアートに詳しくなく、止める理由がなかったのでしょう」

『良いペンに出会いたい』100本試して


 -作品を見ると緻密な作業を続けていることが分かります。
 「私にとっては一つ一つの作品が大作です。絵自体は大きくないですが、一枚描き上げるのに8カ月かかるものもあります。カラーよりモノクロの作品が多いですね。ロットリングのペン先太さ0・1ミリメートルのイソグラフを使って書くのがほとんどです。紺ペンだと、黒の色の深さを変えることができます。点描も斜め線も、一本のペンでさまざまな描き方ができる。これはすごいことです」

 -ロットリングを使ったのはなぜですか。
 「製図をしていたとき、紙とペンだけを使う作業なので、自ずと良い書き味で長時間使っても疲れないペンを探していました。『良いペンに出会いたい』と、100本ぐらい試し、行き着いたのがロットリングの0・1ミリメートルだったのです。太さもいろいろ試しましたが0・1ミリメートルが一番ぴったりきました」

 「長野県・小布施のまちづくりに関連した製図をしたりもしました。長時間の作業は単調になり、ペンの使い心地の違いが分かります。ほかのペンでは3時間で飽きていましますが、いまのペンだと9時間の作業が抵抗なくできました。いまもそうであり、素敵な事だと思います」

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石橋弘彰
石橋弘彰 Ishibashi Hiroaki 第一産業部
アートを手がける人間というと、どうしても取っ付きにくい印象を受ける。だが、岸さんはそうではなく、真摯にいろいろと話してもらえた。絵についても「絵を見て何を書きたいか受け取ってくれ」と言われないかと心配したが、全くの杞憂だった。周りの評価が高まっても、人柄は変わらないでもらいたい。

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