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東芝が描く、“東芝にしかできない” 再成長戦略

ロボット、AI、暗号通信まで。4―9月期の営業損益は黒字に
東芝が描く、“東芝にしかできない” 再成長戦略

量子デバイスの評価実験(左、東芝提供)と物流向けの自動荷下ろしロボット(イメージ)

 東芝はロボット、人工知能(AI)分野を起爆剤にした再成長戦略を描いている。ロボット、AIの長い研究開発の歴史に加え、大型発電やビル施設など社会インフラ領域を広く手がける知識やノウハウ、得意の半導体やセンサーなどデバイスを組み合わせた独自路線を歩むことで、研究開発競争の激しさが増すロボット、AI分野で存在感を発揮したい考えだ。

物流・商流向けシステム提供


 ロボット技術では、最近立て続けに成果を出してアピールを強めている。深刻な人手不足で自動化が進む物流分野向けに、荷下ろしを自動化するロボットを開発した。カゴ台車に積まれたサイズのバラバラな箱を1個ずつ取り出してコンベヤーに移す。人手と同じ処理能力を持ち、仕分け前作業を自動化できる。

 店舗内業務向けでは、子会社の東芝テックが棚卸し作業を自動化するロボットシステムを開発した。自動走行するロボットが店舗や倉庫内を動き回り、商品に付いたRFID(無線識別)タグを読み取る。受発注システムとの連携による不足商品の自動発注機能なども盛り込むという。

 こうしたロボット技術は東芝が持つ画像認識やセンシング、アクチュエーター(駆動装置)といったコア技術を生かしたものだ。他分野向けでも生産現場向けの多関節型や油圧双腕ロボット、福島第一原発対応の内部調査、除染ロボットなど幅広い研究開発テーマを持つ。

 だが、ロボットは単体で普及させても自動車やスマートフォン(スマホ)のような膨大な台数を販売することはできない。それよりもビッグデータやクラウドコンピューティングといった仕組みやAIと組み合わせ、ロボット技術を含めたシステムとして提供する方がうま味が出る。

 東芝はソフトとハードを組み合わせたAI応用を目指している。主な対象領域は自動運転に向けた車載プラットフォームと、産業ビッグデータマイニング、音声・画像認識を利用したメディア処理技術の三つだ。

 ロボット技術にも使われるセンシングやデバイス、記憶媒体などを活用し、現場の機器や端末に近い場所で演算・処理する「エッジコンピューティング」を強く打ち出したシステムの実用化を進める。

目玉は音声認識ツール


 AI技術の目玉は、クラウドを使った画像・音声認識ツール「リカイアス」だ。AIで人の声色や表情などの情報を基に、意図や状況を理解した上で自然に応答できる。

 ロボットやAIの先行研究を担う研究開発センターの堀修所長は「自ら学んで対話知識を増やす機能も盛り込み、多言語対応のコンシェルジュとして製品化したい」と意気込む。

 社会インフラ関連は、情報爆発、少子高齢化、社会資本の老朽化など課題が深刻化している。ビッグデータ処理、センサーネットワークとAIを組み合わせ、課題解決に寄与したいという。

 実用化への時間を縮めるため、外部の知見を活用するオープンイノベーション戦略も積極化する。昨今は欧米だけでなく、中国の清華大学やインドのインド工科大学とも共同研究を進めている。

 堀所長は「特に人工知能関連のIT人材は取り合い。共同研究による外部の人材やノウハウの活用は増やす。さらにグループ内でも教育や配置転換で人材を確保したい」としている。
(文=石橋弘彰)
日刊工業新聞2016年11月2日

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
原発事業を筆頭にまだ東芝の課題が払拭されたわけではない。リストラを進めてきたが、幸いまだ研究開発の層は厚い。いかに事業に結び付けていくか。

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