スマホの長時間使用が「うつ」の原因に!?“首こり”のリスクとは

<情報工場 「読学」のススメ#18>『「スマホ首」が自律神経を壊す』(松井 孝嘉 著)

**前斜姿勢は通常の3倍首に負担をかける  肩や首の「こり」に悩まされる日本人は、昔から多い。平成25年度の厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、自覚症状のある病気やけがで「肩こり」は男性で2位(1位は腰痛)、女性では1位になっている。ちなみに「肩こりという言葉は日本語にしかなく、日本人特有の症状だ」という説が流布しているが、それは間違いらしい。英語には「stiff neck」という言葉がある。直訳すれば「首こり」であり、厳密に言えば「肩こり」ではないのだが、われわれが訴える「肩こり」は、首から肩にかけての痛みや違和感であることが多いので、同じ症状とみていいだろう。  私自身もそうなのだが、デスクワークの多い人にとって肩や首のこりは職業病のようなもので、もう慣れっこになっているのではないだろうか。ひどければ、街のマッサージ店に行けば、一時的にラクになる。だが、本書『「スマホ首」が自律神経を壊す』を読むと、それではすまないことがわかる。  パソコンやスマートフォン(スマホ)が普及する前から、もちろんデスクワークと肩こり・首こりはワンセットだった。だが、とくにスマホの使用が広がることで、われわれの「こり」はますますひどくなっているのではないか。ワークタイムだけでなく、プライベートの時間にも、「こり」につながる姿勢でいることが多くなったからだ。  電車の中や街中でスマホを使っている人を冷静に眺めてみよう。皆同じ、前かがみの姿勢でじっと液晶画面を見つめているはずだ。異様な光景に感じることも、たまにある。普段は自分もその光景の一部なのだが。    『「スマホ首」が自律神経を壊す』の著者、松井孝嘉さんは東京脳神経センター理事長を務めるベテラン脳神経外科医で「首の研究」第一人者と言われている。約40年前にムチウチ症の研究をしていた時に、首の筋肉をゆるめることで症状が緩和されることを発見。さらにその治療法がそのほかの疾病にも有効であることがわかり、首の筋肉の異常が原因で起こる病気を総称して「頸性神経筋症候群」と名づけた。そしてこれを一般にもわかりやすく「首こり病」と名づけ、豊富な臨床経験をもとにその存在と予防を訴えている。本書では、その首こり病のメカニズムや対処法、予防法について詳細にわたり解説している。  松井医師によれば、人間の頭部は約6キログラムの重さがあり、私たちの首はそれを終日支えている。ほとんどの人がスマホをいじる際の前斜姿勢では、その首の負担が3倍になる。スマホでゲームやSNSに夢中になっていると、何時間もの間、とてつもない負荷を首にかけ続けることになるのだ。  負担をかけられた首は筋肉疲労から筋肉変性を起こし、しまいには骨のように硬くなる。それが「首こり病」だ。それだけでも厄介だが、もっと恐ろしいのは、この症状がさまざまな疾病につながる可能性だ。頭痛、めまい、吐き気、胃痛などの症状が生じ、それが悪化。松井医師はさらに深刻なものとして、「うつ」への発展を警告している。首こりが原因で起こる「うつ」は、重症化すると自殺に至る危険性も高いという。  こうしたさまざまな症状を生むメカニズムに深く関わるのが、書名にもある「自律神経」だ。自律神経は、われわれ自身が意識しなくとも自動的に働き、内臓の動きや、消化や呼吸、発汗、体温、代謝活動などをコントロールする。「交感神経」と「副交感神経」の2種類があり、それぞれ対照的な働きをする。交感神経は人の心を興奮状態・緊張状態にもっていく。そうした高ぶった交感神経を抑えるのが副交感神経だ。  この副交感神経がうまく働かなくなったらどうなるか。いわばブレーキの効かない車のように、コントロール不能になる。そうすると体や心にさまざまな不調が生じてくる。松井医師は、首こり病による、前述したようなさまざまな症状は、副交感神経が働かなくなったことが原因だという。すなわち、副交感神経の指令が、こり固まった首の筋肉に妨害されて各器官にいきわたらなくなるということだ。  不調のメカニズムがわかれば話は簡単だ。症状を軽くするには、首をうまくほぐして筋肉をやわらげればいい。そして、首がこるような姿勢を長時間続けることを避ければ予防になる。ただし、首はデリケートな部位なので、強くもんだりポキポキ鳴らすことは避けるべきだそうだ。  ある程度健康な人の心身は、思う以上に丈夫にできていると思う。多少無理をしようが、その後に必要な休息をとれば回復する。なかなか回復しない場合は、大きく分けて二つのケースが考えられる。一つは、極端に無理をしすぎて限界を超えたとき。もう一つは、要となる箇所(急所)を痛めた場合だ。後者であれば、ふだんなら平気なはずの負荷でも不調につながってしまう。本書の論に従えば、その「急所」とは「首」だ。  われわれは、普段から自分がどのくらいまで無理できるのか、「無理のしきい値」とでもいうべき自分なりの基準を、しっかりと把握しておくべきだろう。そのしきい値に至らないのに不調や何らかの症状が発生したら、「首こり」を疑ってみるといい。  いちばん良いのは、もちろん「首こり」にならないよう普段から気をつけることだ。何時間も前斜姿勢でスマホを操作するような「極端さ」を避ける。「極端さ」から個性やユニークなアイデアが生まれる、と主張する人もいるが、スマホの操作のような日常動作にまで「極端さ」を求める必要はない。むしろ日常は可能なかぎりニュートラルなコンディションを保った方が、いざという時の「極端さ」が生きてくる。  あまり神経質になりすぎるのは逆効果だが、本書を参考に、気がついた時に「首」のケアをする習慣をつけてみてはいかがだろうか。 (文=情報工場「SERENDIP」編集部) 『「スマホ首」が自律神経を壊す』 松井 孝嘉 著 祥伝社(祥伝社新書) 184p 780円(税別)

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