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高価なスーパーコンピューターを身近な存在に

「スパコンの民主化」狙う、スタートアップのエクストリームデザイン
高価なスーパーコンピューターを身近な存在に

9月のテック・イン・アジア東京のピッチコンテストで特別賞を受賞した柴田さん(中央右)

 現在われわれが使っているスマートフォンやパソコン、家庭用ゲーム機がかつてのスーパーコンピューター(スパコン)の性能に匹敵する、という話を聞くと、素直に「技術の進歩って素晴らしいなあ」と思います。とはいえ、現在においてスパコンのような高性能マシンがパソコンに取って代わられ、その必要性がなくなっているというわけではありません。

 軍事分野はさておき、理化学研究所の「京(けい)」に代表されるように、材料や生命科学、医薬品候補分子を探索する創薬、自動車・航空機といった製造分野での構造解析、各種シミュレーションなど科学技術の発展を支える基礎インフラとして、スパコンの重要性は増すばかり。それに加えて、最近ではフィンテックやIoT(モノのインターネット)、医療画像解析、機械学習・深層学習といった人工知能(AI)関連の大規模データ分析でも、高性能マシンの高度な演算機能がカギになりつつあるようです。

 そうした中、ユーザー側に専門的な知識不要、クラウド経由でスーパーコンピューターを手軽に利用できるー。そんなサービスを提供するスタートアップ企業が現れました。2015年2月に設立されたばかりのエクストリームデザイン(東京都品川区)で、11月下旬に「エクストリームDNA」と名付けたサービスの提供を早期評価ユーザー向けに始める予定でいます。

 同社が目標に掲げるのは、高価なスパコン機能を専門家でなくとも日常的に使えるようにする「スーパーコンピューターの民主化」。マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「アジュール」を利用して仮想的なスパコンを構築し、ユーザーは従量課金でスパコン機能を使えるようになります。それだけだと簡単そうに聞こえますが、機械学習を使ってユーザーごとに最適なスパコン機能を作り上げ、その運用管理を自動化する無人化システムまで開発し、ハードウエア、アーキテクトによる設計構築、運用監視にかかる費用を劇的に削減したということです。

 創業者でもある最高経営責任者(CEO)の柴田直樹さんは、建設コンサルティング会社での河川計画技師を振り出しに、スパコン系ITベンチャーへと進路を変え、以来ヒューレット・パッカード、マイクロソフト、IBM、クレイと16年にわたってスパコン畑を歩んできました。自身では「日本に数人しかいないスパコンのアーキテクト」と言います。

 9月初めに都内で開かれたスタートアップイベント「テック・イン・アジア東京2016」のプレゼンコンテストでも、アジア全域から選抜された7社のうち、日本企業として唯一受賞を果たしました。柴田さんによれば、その直後に多数のベンチャーキャピタルから出資のオファーが舞い込んだということです。スパコンを身近な存在にすることで技術開発力や解析能力をパワーアップする、期待の星に注目です。
2016年10月17日付日刊工業新聞電子版
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
スパコンと言って頭に浮かぶのは、毎年2回発表される世界ランキングのTOP500。今年下期の発表はたぶん来週ぐらいになると思いますが、上位はまたもや中国勢でしょうか。こうしたトップクラスのスパコンは国威発揚はもちろん、高速シミュレーションによる兵器・宇宙機器開発、科学研究および産業技術の発展に寄与するとは思いますが、ピーク性能ばかり追求するアプローチは、それこそスパコンの民主化とは逆行した流れのようにも感じられます。

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