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今日は「津波防災の日」 予測技術の導入進む

南海トラフの深海底に地震動検知システム、気象協会は「微気圧振動」を観測
今日は「津波防災の日」 予測技術の導入進む

紀伊半島から四国沖の南海トラフに設置したDONETの展開図(防災科研の資料を基に作成)

 5日は「津波防災の日」。1854年11月5日に和歌山県を大津波が襲った際、村人が稲むらに火をつけて警報を発し、村民を避難させた「稲むらの火」の逸話が由来だ。津波による甚大な被害が起きた2011年の東日本大震災が制定の契機となった。過去の教訓を生かし、津波予測技術を防災に役立てる動きが企業や研究機関や企業、自治体で広まりつつある。

 企業や自治体などの防災対策に生かされているのが、防災科学技術研究所の地震・津波観測監視システム「DONET」だ。海域で発生する地震や津波を常時観測・監視するために、南海トラフ周辺の深海底に設置した。

 DONETは、地殻変動のようなゆっくりとした動きから大きな地震動まで、あらゆるタイプの海底の動きを捉える。主要動や津波が到達する前に、防災情報を発信できる。

 三重県は、5月に開かれた伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)を機にDONETを活用した津波予測・伝達システムの運用を始めた。DONETが津波を検知すると、同県鳥羽市や同志摩市などへの「最早津波到達時間」や「最高津波高」などをシステムが計算。結果は同県庁防災対策部災害対策室のモニターに表示され、災害対策活動に活用する。

 さらに観測点の2カ所以上で50センチメートルを超える津波を検知すると、沖合での津波観測情報や、高台などへの避難を呼びかける緊急速報メールを伊勢志摩地域内のスマートフォンなどへ配信する。

 DONETの情報は和歌山県や気象庁、中部電力なども防災対策に導入している。「新たにDONETの利活用方法を検討している自治体や電力・鉄道事業者などもある」(防災科研地震津波火山ネットワークセンターの高橋成実副センター長)と、津波情報を防災に生かす取り組みが広がりつつある。


 一方、日本気象協会は、大気中の微小な気圧の振動である「微気圧振動」を捉える「微気圧計」を使い、津波の早期検知に向けた研究に取り組む。微気圧振動は、津波に伴う海面の隆起・沈降や火山の噴火などで生じる。東日本大震災を引き起こした11年の東北地方太平洋沖地震では、津波が沿岸に到達する約12分前に地上で微気圧振動を捉えた。

 この微気圧計は、岩手県大船渡市と三重県志摩地域に設置されている。今後は西日本にも設置し、観測態勢を強化する。また、観測した微気圧振動のデータを公開するウェブサイトを17年4月頃に開設する予定だ。

 同協会事業本部防災ソリューション事業部の本間基寛専任主任技師は、「防災だけでなく、微気圧振動に関する研究にも役立ててほしい」と力を込める。

 海で地震が発生した場合、まず津波の有無を警戒する必要がある。南海トラフ地震でも巨大な津波の発生が予想されており、1秒でも早い津波情報の発信が必要だ。

 最新のシステムや研究成果を防災活動に導入し、被害を最小限に抑える体制が求められる。
(文=福沢尚季)
日刊工業新聞2016年11月4日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
内閣府によると10月29日から11月6日の間に、国や自治体だけでなく民間の97社・団体が訓練を予定している。多くは避難と安否確認の訓練だ。民間企業が実施する津波防災訓練には、自治体と連携して事業所内の施設を開放し避難者を受け入れるものもある。企業が地域との関係を深めることは災害発生時に役立つ。 2011年6月に制定した「津波対策の推進に関する法律」には11月5日を「津波防災の日」とすることを盛り込んだ。これは海外にも知られ、国連では昨年12月、日本が主導する形で142カ国が共同提案して同日を「世界津波の日」に定めた。 江戸時代末期の安政元年(1854年)は11月4日に安政東海地震、5日に安政南海地震が立て続けに起きた。現在の和歌山県広川町(当時は広村)では、地元の名士の浜口梧陵が刈ったばかりの稲の束に火を付け、暗闇の中で逃げ遅れた村人を高台に避難させた『稲むらの火』の美談が伝わる。

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