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「パリ協定」きょう発効。日本の技術が世界の温暖化対策の切り札に

藻の培養からCCS、人工光合成まで
「パリ協定」きょう発効。日本の技術が世界の温暖化対策の切り札に

2015年末の気候変動枠組条約COP21におけるパリ協定の採択(環境省ビデオより)

 温暖化を招く厄介者の二酸化炭素(CO2)を回収し、植物の栽培に使ったり、プラスチック材料に変えたりする技術開発が進んでいる。4日に発効する地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」は、温室効果ガスの排出量と吸収量を一致させ、排出を実質ゼロにする「脱炭素」技術の早期実現を目標に掲げている。CO2を回収・利用する日本の技術が温暖化対策の切り札になりそうだ。

ゴミ焼却のCO2を藻類培養工場へ


 佐賀市は8月、ゴミの焼却で発生したCO2の販売を始めた。清掃工場の排気からCO2だけを回収し、隣接する藻類の培養工場に供給。培養工場は購入したCO2で藻の光合成を促進する。

 清掃工場の敷地に立つ煙突のような設備がCO2回収プラントだ。排気を設備内でCO2とそれ以外の物質に分離。取り出したCO2はいったん貯蔵し、パイプラインでつながった培養工場へ直送する。1日のCO2回収量は10トンだ。

 回収プラントは東芝が納入した。同社は佐賀市の実証事業に参加し、2013年秋から清掃工場に実証機を置いて性能を評価してきた。当時の回収量は1日10キログラム程度で、CO2は植物工場へ送り、野菜栽培に使っていた。

 この事業を知ったリサイクル業のシンシア(東京都品川区)などが、藻類を食品や化粧品の原料に加工するアルビータ(佐賀市)を設立。CO2を有償で供給してもらおうと、培養工場を建設した。

 東芝によると、清掃工場でのCO2回収の商業化は世界初という。排気のCO2の一部しか回収できないが、大気中へのCO2放出量を減らせる。

(佐賀市清掃工場で商業運転を始めたCO2回収プラント)

ヤシ殻で「排出ゼロ」


 東芝は発電所でも珍しいCO2回収を計画する。環境省の事業に採択され、同社グループ会社の火力発電所「三川発電所」(福岡県大牟田市)に大規模なCO2回収プラントを20年度までに建設する予定だ。発電所のCO2排出量の半分に当たる日量500トン以上のCO2を回収する。

 現在、三川発電所は石炭を燃焼させているが、17年度からはヤシ殻を燃料にする。ヤシ殻はCO2を吸収しながら育つことから、燃焼してCO2が発生しても「排出ゼロ」と換算される。あえて東芝はCO2回収プラントを取り付け、大気中へのCO2放出を物理的に抑える。

地中に閉じ込める


 発電所の排気からCO2を回収し、地中に閉じ込める「CCS」技術がある。炭素・回収・貯留の英語(カーボン・キャプチャー・ストレージ)の頭文字だ。海外で10件以上稼働しているが、普及となると課題がある。CO2を埋める場所がなければ掘削が必要となり、導入コストが膨らむからだ。

 佐賀市のように回収したCO2の利用(ユーティライゼーション)は「CCU」と呼ばれる。導入コストは抑えられるが、こちらにも課題がある。大型の火力発電所となると1日1万トン以上のCO2を排出する。これだけの量となると利用しきれない。東芝火力・水力事業部マーケティング&事業開発部の鈴木健介部長は「CO2の回収はCCUだけだと難しい。CCSも必要だ」と分析する。

 バイオマス発電のCO2を回収する「バイオマスエネルギーCCS(BECCS)」も、パリ協定の採択によって注目されてきた。「三川発電所は世界初のBECCSになりそうだ」と鈴木部長は話す。


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日刊工業新聞2016年11月4日「深層断面」
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
自治体がCO2を売るのはユニークな取り組みと思います。ゴミ焼却場と藻の培養工場という組み合わせは、新しいエコシステムを予感させます。工業用CO2はドライアイスやレーザー加工機向けに売られています。CO2の用途がもっとあればCCUも普及するでしょう。そう思っていたらNEDOの人工光合成。CO2をプラスチックにするのであればCO2の用途・需要が増えそうです。

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