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医療ビッグデータ活用で保険に入りやすくなる!?大手生保が査定を高度化

精緻なリスク分析で加入対象層が広がる可能性も
 持病を抱える顧客を対象とする生命保険の引き受け査定の取り組みが進化している。従来は加入できなかった事例でも、ITによるビッグデータ解析でリスクの細分化が精緻になり、加入対象層が広がる可能性が出てきた。第一生命保険など大手生保ではITと金融を組み合わせた「フィンテック」の一環として、査定基準の高度化の動きを活発化させている。

 「究極はどんな保険商品にでもお客さまが加入できるようにしたい」。契約医務部に所属する第一生命の西川将純契約企画課長は査定高度化の意義についてこう強調する。

 同社では現在、医療ビッグデータの解析が急ピッチで進む。自社で保有する約1000万人ものデータと、外部機関の約300万人分のデータを重ね合わせ、健康診断の結果と疾患の因果関係などをITや高度な解析技術で分析している。

 例えば、特定の病気を患ったとしても、その後の状況を健康診断の結果などで時系列に分析。適切な治療を続けていれば完治の可能性が高まることを仮に定量的に把握できれば、持病の顧客でも査定をクリアできる可能性が高まる。ビッグデータ解析は始まったばかりだが、契約が可能となった事例が早速出ているという。

持病の顧客に社会保障を


 生保会社では持病を抱える顧客には契約を断ったり、保険料割り増しなど条件付きで対応したりすることが多い。住友生命保険が開発し、今では業界で一般的となった引き受け基準緩和型の商品もあるが「四―五つの告知項目で判断するため、悪く言えば丼勘定になりがち」(業界関係者)との指摘もあった。

 ビッグデータ解析はリスク細分を精緻化し、いわば、引き受け基準緩和を進化させた取り組み。解析により保険加入層が広がれば、生保会社にとり市場拡大が期待できる。一方、民間生保が持つ公的社会保障の補完という機能を考えれば、持病の顧客に社会保障を提供することは公共的な意義も大きい。

 特定の母集団に関するリスクから、一人ひとりに近い形でのリスクの分析へ。その先には住生などが開発中の個人の健康状態に応じて保険料を割り引く健康増進保険の開発も控える。フィンテックによる査定高度化や商品開発の動きが今後も活発化していきそうだ。

 もっとも、健康データは個人情報に関する重要データの一つ。金融機関として個人情報保護をいかに強化するかといった問題はもちろん、個々のリスク解析が進むことが、プライバシーの観点で社会的にどこまで受け入れられるのかという課題も議論になりそうだ。
(文=杉浦武士)
日刊工業新聞2016年11月3日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
生命保険の引き受けでは、入り口の審査段階でリスクを見極めることが重要です。間口を広げると保険金や給付金の支払い増につながる恐れがあり、逆に入り口を狭くしすぎると加入者が増えないというジレンマがあります。ビッグデータ解析が進むと、こうしたジレンマが緩和されるかもしれません。

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