地域の社会課題、リクルートにみる解決への向き合い方

<追記>新規事業開発プログラムから「あいあい自動車」まで

写真提供=リクルートホールディングス

 リクルートホールディングス(HD)は、長野県塩尻市と地域創生をテーマにした包括連携協定を結んだ。地域の課題解決に向けた新規事業について、塩尻市の協力を受けてディスカッションやフィールドワークをする。8月に高知県と同様の協定を結んでおり、今回は2件目。  リクルートHDは社内の新規事業開発プログラム「リクルートベンチャー」で、地域の課題解決に向けた事業創出に取り組んでいる。塩尻市は木質バイオマスの推進や情報通信技術(ICT)産業の振興に取り組んできた。事業開発のノウハウを持つリクルートHDと組むことで、市内での新規の事業や産業の創出、それを担う人材の育成を目指す。 日刊工業新聞2016年10月26日 (『あいあい自動車』プラットフォームの開発責任者の金澤一行氏)  今年4月にスタートした高齢者向けのカーシェアリングサービス『あいあい自動車』。地域住民が共同で車を購入し、運転手は無料で利用できる代わりに高齢者を送迎する役目を担います。予約はタブレットを使い、日時と場所を予約すると、登録運転手の中から都合の合う運転手が、利用者を当日自宅まで迎えに行くシステムです。今回は社会保障に新たな可能性を示した、この支え合いのプラットフォームの開発責任者で、自身のことを≪政策屋≫だと語る金澤一行さんに仕事に対する想いを聞いた。  「以前、私はシンクタンクで働いていました。当時は省庁の方と一緒に社会保障政策などについて検討していたのですが、ほとんどの制度の根源にあったのが、≪財政がもたない≫という難問でした。  政策の勉強会やNPO立上げなど色々とチャレンジし、財政が安定しやすく継続可能なものが何かを私なりに考えた結果、最終的にたどり着いたのが≪ビジネスとして利益を生みだす≫というモデルです。民間企業から社会保障を提供することができれば、≪税金をかけない仕組み≫をつくれるのではないかと考え、まずは商売を学ぶために、思い切ってリクルートへの転職を決意しました。  ここを選んだのは世の中の課題に挑戦し続けてきたこの会社なら、たとえ社会保障であってもチャレンジさせてくれるはず、という期待があったのも大きな理由のひとつです」  「都会で生まれ育った方は想像しづらいかもしれませんが、地域にとって"移動"は生きるか死ぬかに関わる可能性のある問題です。運転ができない高齢者の方は食材を買うこともままなりませんし、たとえ通院で済むようなケガでも病院まで通うことが難しく、入院する必要がでてくる事もあります。  こうした課題に取り組むために生まれたのが、車を共同所有することで高齢者や運転手、自治体、タクシー会社、それぞれにメリットをもたらす『あいあい自動車』です。継続的にサービスを提供していくために私たちも運営費をいただきますが、その分を超えた利益は、地域で使い方を決めていただき、運転手さんへの謝礼として使っていただいても、お祭りや公民館の補修など地域のための予算にあててもらっても構いません。  私も地方の不便な場所出身で、小学生の頃、毎週楽しみにしていた少年ジャンプを買いに行くのがとても大変で、田舎の交通の不便さは身にしみて知っていましたし、住んでいる時は、田舎の不便さが嫌で都市部に出たいと思っていました。しかし、離れてみると、田舎の良さにも気づき、今は地方によい社会を残すために、不便なところを解消させたいと強く思っています。  現在、実証実験中の三重県菰野町は、バスが1日3本しか運行していない地域でした。『あいあい自動車』を導入したことで、高齢者の方はお買い物や通院など生活に関わることの他にも、お茶を楽しむなど、今まで我慢していた≪やりたいけどやれなかったこと≫に無理なく手が届くようになっています。  ≪今日は子どもが帰省してくるからスーパーで好物を買いたい≫≪10年ぶりに同窓会があるから美容院に行こうと思うの≫そんな笑顔に出会うたびに顔が綻びますし、ハードな仕事に挑戦するうえでの大きな励みになっています」  「数々の自治体からお問合せをいただいている『あいあい自動車』ですが、このサービスの一番の功労者は当社ではなく、地域住民の方々だと思っています。こちらからお願いやご提案をしたわけではないのですが、運転手の方々は自主的に月1回の定例会を開いてくれていますし、なかには≪これはリクルートの事業じゃない。私たちの事業だ≫≪このサービスに命かけてるから≫と仰ってくださる方もいるんです。  『あいあい自動車』というプラットフォームが生まれたことで、もともと皆さんのなかにあった≪支え合いの精神≫に火がついたのかもしれません。社会保障で大切なことは、地域による地域の振興だと思います。  日本が財政難の今、町のなかで≪税金をかけない仕組み≫がまわり、自分たちの手で元気になっていくことには大きな意味があります。これからも住民の方と手を取り合いながらあいあい自動車を進化させていきたいですし、≪家事≫≪調理≫≪掃除≫≪洗濯≫と支え合いの領域を広げることにも挑戦したいと思っています。そして、ゆくゆくは約1700の自治体に導入していきたいと考えています。  私のライフワークは、高齢者も、障害者も、未来の世代も皆が自分らしく行きていける社会保障の仕組みを作ることです。これからも≪政策屋≫として、全力を尽くしていきたいと思っています」 「Meet Recruit」2016年7月15日  地方創生成功のカギの一つは中央や他の地方がどう協力するかにある。リクルートのような大手企業が、得意な分野でノウハウや人材を提供していくことは、地方にとって大きな手助けになるに違いない。大企業がそれぞれの得意分野で、関係の深い地方に対してサポートを行う、このような積み重ねが、地方創生の集合を生み、やがてそれらが相互に協力し合う、そんな形が出来上がるとよいと思う。

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