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「今日が明日を決める」テーマにTEDxTokyo開催

「小利口ばかりの日本には、もっとバカが必要」と堀江貴文さん
「今日が明日を決める」テーマにTEDxTokyo開催

会場となった東京・お台場のBMW Group Tokyo Bay

 22日の土曜日に都内で開催されたライブイベント「TEDxTokyo(テデックス・トーキョー)」に聴衆として参加してきました。インターネットでライブ配信が行われたので、ご覧になられた方もけっこういるかもしれません。

 その本家とも言える米国のTEDカンファレンスは、毎週木曜日の夜にNHK・Eテレで放映中の「スーパープレゼンテーション」でもおなじみかと思います。「広める価値のあるアイデア」を掲げ、その道で世界の最先端を走る人たちが自らのアイデアやパフォーマンスを披露するというカッコイイ趣向。一方のTEDxはそのTEDからライセンスを受け、同じスタイルを踏襲しながら独立して開催されるもので、中でもTEDxTokyoは世界初のTEDxイベントとして2009年に始まりました。その後、日本国内でもさまざまな地域、大学などにTEDxの波が広がり、その数は60前後とも言われています。

司会進行役のパトリック・ニュウエルさん

「パッション」より「オブセッション」


 今回のTEDxTokyoでは「Today Decides Tomorrow(今日が明日を決める)」をテーマに17人のスピーカーやパフォーマーが登壇しました。口火を切ったのはIDEO Tokyoの共同代表、マイケル・ペンさん。彼のプレゼンはフィギュアスケートへの偏愛とも言える深い想いを語ったもので、とりたてて注目すべきような内容ではないと最初思っていたのですが、フィギュアを切り口に、情熱(Passion)よりも、「オブセッション(Obsession=取り憑かれること)」の重要性を強調するあたりから俄然面白くなりました。

 確かに優れたアーティスト、職人、研究者、エンジニアに共通するのは、オブセッションが半端ではないこと。取り憑かれたようにその道を突き進んだ人だけが、(必ずしもそうなるとは限りませんが)成功を手にするのでしょう。

 これは、ホリエモンこと堀江貴文さんのプレゼンともぴったり重なります。彼が常々おかしいと思っているのは、自身の周囲にいる成功者が「天才」か「バカ」かなのに、日本人の大多数が目の前のリスクばかり考える「小利口」な人間ばかりで占められていること。そうした現状を打ち破り、好きなことを追求して世の中を変えていく「バカ」を増やそうと始めたオンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」の活動を紹介しました。月謝1万円を払えば、「独裁者」のように振舞う彼の指導が受けられるというもので、現在840人が登録。ドローンの普及団体はじめ、常識にとらわれないユニークなプロジェクトが立ち上がっているといいます。

スピーカーとして登場した堀江貴文さん

妄想力が富を生む


 「ハードワークよりも妄想力が富を生む時代。オタクではなく、ハッカーやギーク(コンピューターオタク)がほしい」と話したのは、日本のヤフーでCSO(最高戦略責任者)を務める安宅和人さん。ICT(情報通信技術)が世界の経済・産業を引っ張る中、規制や人材などで日本が遅れをとっている現状に危機感を示しながら、大胆な妄想力とそれに基づく独創的なビジネスプランの実行を訴えました。

 ちなみに、彼の話のタイトルは、「シン・ゴジラ」のもじりで「シン・ニホン」。アニメやゲーム、小説、最近の映画を見れば、日本の妄想力は世界トップレベルとはいえ、産業ではどうでしょう。自動運転車、人工知能、フィンテック、シェアリングエコノミーと、外来のアイデアの後追いが目立つ中、競争力の高いロボットやモノづくりなども含めて、今以上のオリジナリティーの発揮が求められます。

シンギュラリティ大学とのイベントも


 もう一つ、先端的なアイデアをシェアするという意味で、興味深い新たなイベントがアナウンスされました。TEDxTokyoの創始者の一人で、進行役も務める米国人のパトリック・ニュウエルさんが、トークの合間に米シリコンバレーにあるシンギュラリティ大学とのコラボレーションを表明しました。シンギュラリティ大学は「2045年にコンピューターの能力が人間を超えるシンギュラリティが起こり、新しい知性が生まれる」という予測でも知られるレイ・カーツワイル氏らが設立した研究・人材養成機関。そこから8人のスピーカーを呼び、「シンギュラリティ大学ジャパンサミット」を2017年に開催するそうです。

 本当に予測の通りになるかどうかはさておき、シンギュラリティも科学に基づいた妄想の賜物ではあります。2年で半導体の集積度が2倍になると勝手に決めつけた「ムーアの法則」自体が半導体やコンピューター産業を押し上げたように、まさに「今日の妄想が明日を作る」。そうした先端アイデアから大いに刺激を受けて、「シン・ニホン」につなげる動きが活性化すればこんなにうれしいことはありません。
日刊工業新聞の元記事にはニュウエル氏の過去のインタビュー記事をはじめ関連リンクが載っています)
2016年10月24日付日刊工業新聞電子版掲載
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
参加は今回で4回目。いつも思うのだが、何よりボランティアによるロジがすごい。見たところ観客の半数以上は外国人で、プレゼンの7、8割は英語で行われましたが、同時通訳にも対応しています。当日のプレゼンはそのうちオフィシャルサイトにもアップされると思いますので、ぜひごらんになってください。

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