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老舗学の第一人者が視座する「なぜあの会社は100年も繁盛しているのか」?

「根本は聖徳太子の『和を以て貴しとなす』の精神にある」(前川洋一郎氏)
 ―「老舗学」で商標を取得するなど、前川さんはこの分野の第一人者です。
 「58歳で大企業の役員に就任した。当時は利益や売り上げを追い求め、勝ち抜くことばかりを考えていた。一線を引いて関西財界の担当となり、いろいろな会社とつき合いができた。その中で小さくてもうかっていないが良い会社、成長はしていなくても、優良な企業がたくさんあることに気がついた。自分の考え方は誤っていたのでは、と考えるようになった」

 ―そこで老舗企業に注目したわけですね。
 「企業が社会的責任を果たすにはまず長寿であること。長生きすることで雇用を守り、納税の義務を果たし、地域との良好な関係を築く。それが基本だ。パナソニックの創業者である松下幸之助氏が唱えた『水道哲学』に通じるものがある。老舗を研究することで、永続繁盛する秘訣(ひけつ)が見えてくる」

 ―全国の老舗企業に取材しています。
 「この8年間に約750社訪問し、370社のトップに直接インタビューした。今回は15社の実例を紹介し、20の鉄則を掲げた。単に羅列するのではなく、経営学の論理に当てはまるように整理した。『駅伝襷(たすき)経営』や『家伝社伝経営』『暖簾(のれん)資産経営』といった具合に、分かりやすいタイトルもつけた」

 ―取材で見えてきたものは。
 「老舗企業は日本型経営を象徴している。その根本は聖徳太子の『和を以て貴しとなす』の精神にある。自由・平等の思想であり、十分に議論を重ね結論を出すという考え方だ。大阪の船場など商家の家訓を整理してKJ法で分析してみると共通点が見えてくる。終身雇用や投機の戒めなど現代に通じるものが多い。これは守り続けたい」

 ―人間に「徳」があるように、企業にも「徳」があるように思います。
 「多くの老舗企業のトップとお会いすると、品格の備わった人が多い。顔立ちや立ち振る舞いから感じる。長い歴史の中で自然と身に付くものだろう。会社員時代は肩書やキャリアで人を判断してきたが、老舗企業を取材して人を見る目ができたように思う」
(聞き手=嶋崎直)
 
 【著者プロフィール】
 前川洋一郎(まえかわ・よういちろう)
 老舗ジャーナリスト。1967年(昭42)神戸大経営卒、同年松下電器産業(現パナソニック)入社。01年取締役、05年退職後、高知工科大学大学院基盤工学専攻修了。大阪府出身、71歳。
 
 「なぜあの会社は100年も繁盛しているのか 老舗に学ぶ永続経営の極意20」(PHP研究所刊)
日刊工業新聞2015年04月20日 books面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
前川さんとは一度だけお会いしてゆっくり話したことがある。大学生向けのビジネスプランコンテストの審査会で。老舗を研究する一方で、これから起業を目指す人、スタートアップシーンの入口を見ている点でもユニークな人だと思う。パナソニックの話でも盛り上がった。2018年に創業100年を迎える今のパナソニックをどう見ているか、久しぶりに聞きたくなった。

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