パリ協定の批准遅れ、「影響はない」はずがない

2015年末の気候変動枠組条約COP21におけるパリ協定の採択(環境省ビデオより)

 地球温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」が日本の批准手続きを待たず、11月4日に発効する。直後の7日からモロッコ・マラケシュで国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第22回締約国会議(COP22)が開かれ、批准国を中心に具体的な運用方法のルールづくりが始まる。日本は10月11日にも閣議決定して国内手続きを急ぐが、想定外の早期発効で各国当局による準備作業が進んでおらず“実害”はなさそうだ。  パリ協定は当初、欧州連合(EU)が域内国の手続きを待って批准書を提出する方針だったため発効は2018年、早くても17年とみられていた。だが米中が9月初めの首脳会談に合わせて早々に批准。インドが続き、EUも域内国の手続きを待たずに批准し発効が決まった。  日本は臨時国会中に承認手続きを済ませる方針だったが、政府挙げて前倒しに動いている。5月の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)でも旗を振ってきた経緯があり、ここで後れを取ると体面が保てない。11日にも閣議決定し手続きを急ぐ。  ただ、締約国として認められるのは批准書提出から30日後。COP22の最終日は11月18日で、その30日前の10月19日までに批准しないと日本は締約国として参加できない。現実には環太平洋連携協定(TPP)関連法案の審議が最優先され、19日に間に合わせる日程調整は難しい。  パリ協定の批准遅れに対し、経済産業省幹部は「100%影響はない」と言い切る。具体的な検討の場となる第1回締結国会議(CMA1)は、COP22の会期中に行われるとみられるが、「CMA1では何も決まらない。何を議論するかは年明け以降になるのではないか」(経産省幹部)と語る。この時間軸でいけば、批准効力の発生が国連に提出してから30日後になるにせよ「多少の負い目はあったとしても、議論に参加できる」(同)。  「早期批准の手続きを進めてほしい」―。経団連の榊原定征会長は7日、高村正彦副総裁、二階俊博幹事長ら自民党幹部との懇談の中でパリ協定についてこう要請した。その上で、日本は協定の批准は遅れているが、温暖化対策自体が遅れているわけではない点も強調。世界のビジネスに大きな影響を与えるルール作りへの早期参加を重視している。  パリ協定採択に背中を押されように、企業が動きだしている。化石資源に依存しない「脱炭素」の目標を国際社会が共有したことを受け、LIXILやアスクルが相次いで環境負荷ゼロに挑戦すると発表した。日立製作所も、50年までに二酸化炭素(CO2)排出量を80%削減する長期目標を策定した。  より積極的なのが海外の巨大企業だ。アップル、マイクロソフト、グーグル、ネスレなどが事業で使う電力すべてを再生可能エネルギーにすると表明した。    そこには競争で優位な立場を獲得しようという思惑もある。CO2排出規制が強化されると、火力発電の電力価格が上昇する。再生エネ100%を掲げた海外企業は、安価に安定的に電力を調達できる再生エネ発電所を早めに確保できる。  パリ協定を採択したCOP21の会場でも海外トップは脱炭素への支持を次々に表明した。その場で日本は政府だけでなく、企業も存在感が薄かった。  COP21の会議に立ち会った数少ない日本企業であるリコーの加藤茂夫執行役員はパリから帰国直後、「取り残されるのではなかいと危機感を持った」と語っていた。    日本の批准遅れが企業の危機意識の低下を招くと、国際競争から遅れることになる。政府は企業の意識醸成のためにも、批准を急ぐべきだ。 日刊工業新聞2016年10月10日の記事から抜粋・加筆  地球温暖化対策の新しい国際ルール「パリ協定」が、11月初めに発効する。11月7日にモロッコで始まる気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)でパリ協定の第1回締約国会議が開かれ、詳細なルールづくりが始動する。臨時国会で審議予定の日本は出遅れが確実になった。企業の低炭素技術の開発や輸出を後押しするためにも、早期の批准を望む。  2015年12月に採択したパリ協定は、産業革命前からの気温上昇を2度Cに抑え、可能な限り1・5度C未満とする目標を世界が共有する。21世紀後半に温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、化石燃料による排出を事実上ゼロにすることも盛りこんだ。  先進国だけが削減義務を負った京都議定書は米国が途中離脱するなど難航し、発効に7年余を要した。パリ協定は196カ国・地域が参加し、55カ国が批准かつ総排出量の55%以上をカバーすると30日後に発効する。  9月上旬、温暖化対策に消極的だった米中が足並みをそろえるように批准。インドも早期批准を表明した。触発された欧州連合(EU)は、域内国の手続きを待たずに批准を決めた。  競い合うように名乗りを上げた各国は、COP22で自国に有利なルールを主張する見込み。発効は18年になると読み違いをしていた日本は、議論の蚊帳の外に置かれかねない。  すでに日本企業はパリ協定を先取りする動きをみせている。日立製作所は50年までに二酸化炭素(CO2)を80%削減する目標を公表した。達成の裏付けはないが「革新的な技術が必要になる。長期目標を作り、先を見越して開発に取り組みたい」(荒木由季子CSR・環境戦略本部長)という。またソニーやトヨタ自動車は新技術開発などで、CO2排出量ゼロの野心的な目標に挑戦する。  パリ協定では今後、CO2抑制のための「技術的枠組み」を議論することで合意している。日本企業が低炭素ビジネスの国際競争から取り残されないためにも、政府は遅れを挽回し、議論の場に加わってほしい。 日刊工業新聞2016年10月5日

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