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投資ファンドの買収合戦、「さが美」経営陣の選択は?

「コーポレートガバナンス・コード」強化の流れの中で
 経営者の責務は、各種のステークホルダーの利害関係を調整しながら経営資源を効率的に利用し、企業価値を最大化することである。ただ企業価値を可視化したり、将来の価値を予測したりするのは困難だ。そうした場合に経営者には、十分な説明責任が求められる。

 今春、エレクトロニクス大手のシャープの経営権を巡って、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と政府系ファンドの産業革新機構が買収合戦を繰り広げたことは記憶に新しい。それぞれ異なる将来ビジョンを提示したとされるが、シャープ経営陣は最終的に会社の分割を避け、債権者負担の小さくなる鴻海の提案を選んで傘下に入った。

 ただ当時の経営陣が、十分にガバナンスのきいた状態で経営判断をしたかどうか疑問が残る。今後の業績で結果の正しさを示すしかないのが実情だ。

 シャープとは業種も規模も異なるが、呉服専門店チェーンのさが美を巡る買収合戦が進行中だ。親会社であるユニーグループ・ホールディングスが、持ち株を独立系ファンドのアスパラントに売却すると発表。これに対してニューホライズンキャピタルが、より条件の高い買収提案をした。

 こうした買収合戦が、株式の公開買い付け(TOB)ではなく提案ベースで進むのは珍しいケースだという。一株あたりの買い付け価格は一方の56円に対して他方は90円と、大きな差がある。むろん経営者や株主には相応の事情や思惑があろう。ただ両方の提案を真剣に検討し、その結果と理由を公表することは経営者の責務だ。

 東京証券取引所と金融庁は昨年6月に、上場企業の企業統治の原則を定めた「コーポレートガバナンス・コード」を適用した。東証の調査によれば、1年を経た今年7月時点で上場企業の約90%にあたる3114社が適用を開示している。

 企業統治の諸原則は買収のような特殊事態だけでなく、日々の企業行動に適用される。経営者は常に、何が自社の企業価値の最大化であるかを明確にできなければならない。

日刊工業新聞2016年10月7日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今回の案件は善管注意義務やレブロン基準などさまざまな争点があります。10月11日がTOBの締め切り。さが美の取締役会や親会社がどのような判断をするのか注目です。

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