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“爆”から“普通”へ、訪日客の興味が移行。小売店は戦略見直し

“爆”から“普通”へ、訪日客の興味が移行。小売店は戦略見直し

「日常生活」を体験したい訪日客が増えている(セブン-イレブン店舗の免税サービス)

 10月1日から中国の大型連休「国慶節」が始まる。訪日客の増加が見込めるが、当局の関税強化や為替の円高、中国の景気減速で2015年並みの“爆買い”は期待できない。リピーターの増加や越境電子商取引(EC)の進展などを背景に、新規の訪日客が店舗でじかに買い物をするニーズが後退している中、戦略の見直しを迫られている。
 
 小売り各社の免税売上高は、減少の一途をたどる。日本百貨店協会がまとめた百貨店の免税売上高は、8月が前年同月比26・6%減。5カ月連続で前年実績を割った。総合免税店を運営するラオックスの売上高は7カ月連続で前年同月比マイナス。中でも8月は、同53%減と大きく落ち込んだ。いずれも購入客数は横ばいだが、購入単価の減少が響いている。

 日本政府観光局(JNTO)がまとめた8月の訪日客数は同12・8%増で、訪日客の数自体は増加傾向だ。中国の関税強化で転売を目的とした業者が減り、購入品の人気は時計などの高級品から消耗品に移っている。

 百貨店では15年、免税対象品目の拡大や円安を背景に、免税売上高が前年比2・6倍と急増した。国内の消費が冷え込んでいる中、訪日客による爆買いは数少ない好材料だった。勢いを取り込もうと、免税や通訳などのサービスを競い、囲い込みを図っていた。

 三越伊勢丹ホールディングス(HD)などは1月以降、消費税だけではなく関税や酒税、たばこ税も免税となる空港型市中免税店を相次いで設けたが、売り上げは低迷している。松屋は旗艦店の銀座店で、15年9月に訪日客向けに特化した化粧品売り場を開くなどしてきた。だが、17年2月期は免税売上高が見込みを下回っているとして、9月26日に業績予想を下方修正した。

 大原孝治ドンキホーテホールディングス(HD)社長は訪日客対応について「旅行客しか来ていない場所に連れて行かれるのは、嬉しいだろうか」と疑問を呈する。自社の店舗施策については「インフラではなく、サービスを拡充する」としている。

 ぐるなびは9月9―18日、過去5年間に日本を観光したことがある中国人に、日本への旅行に対する意識調査を実施した。次の旅行で楽しみたい外食のトップ3は「日本人がディナーでよく行く普通の店」(61・5%)、「日本人がランチでよく行く普通の店」(54・1%)、「日本の郷土料理が食べられる店」(45・9%)で、「温泉宿でちょっと豪華な料理」(27・7%)などを上回った。

 百貨店やコンビニエンスストアは国慶節を前に、海外のカードや決済サービスの取り扱い、通訳サービスを拡充した。特別ではない、日本人の「日常生活」を垣間見られる体験ニーズを取り込みたい考えだ。
(文=江上佑美子)
日刊工業新聞2016年9月30日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
同じ場所に何度も旅行していると、観光客向けのものより地元の人が好むグルメが気になるものです。「日常生活を体験してもらう」という点ですでに“用意されている感”があり、日常ではなくなっている気もしますが…

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