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欧州2社買収へ。GE、金属3Dプリンターの本気度

ユーザーから装置の供給側へ。業界の勢力図は変わるか
欧州2社買収へ。GE、金属3Dプリンターの本気度

IMTS2016でのSLMソリューションズのブース

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)が、金属3Dプリンターメーカーの買収に踏み切る。対象はスウェーデンのアーカムと、ドイツのSLMソリューションズの2社。いずれも独自の金属積層造形技術を持ち、GEは両社の蓄積を用い、航空機分野などで金属プリンターの活用を加速させる方針だ。また、これまでユーザーだったGEが装置の供給側に回ることにより、金属プリンター業界が大きく変わる可能性もある。

 GEが2社を一挙に買収する意味は大きい。まず、アーカムは、電子ビームで金属を溶融する独自技術が強み。主流のファイバーレーザーによる溶融と比べ、残留応力を低減できる点などがメリットとされる。

 一方のSLMソリューションズは複数のレーザーを用いて造形する装置を、いち早く開発した企業として知られる。単一レーザーの場合より溶融速度が高く、造形を高速化できるのが特徴だ。電子ビームとレーザーでは扱える材料も異なり、GEは買収により双方の技術を持つオンリーワンの存在となる。

 GEは数年前から、航空機関連部品などの生産に金属プリンターを適用している。切削加工などでは実現できない複雑な形状を生み出し、製品や製法の競争力を高めることが狙いだ。

 例えば、ジェットエンジンの燃料ノズル。同社子会社のGE・アビエーションによると、金属プリンターの利用により形状が最適化され、燃費効率を大幅に改善できているという。

 今回の買収からうかがえるのは、金属プリンターにかけるGEの本気度だ。金属の積層造形は大きな可能性を秘めるものの、造形速度の遅さや材料コストなど課題も少なくない。GEはこうした課題を解決すべく、一気にアクセルを踏み込むことになる。

 また、GEが、手中に収めた装置ビジネスをどう展開するかも見どころだ。例えばアーカムなどは企業規模が小さく、アフターサービスの体制が弱点。GEの後ろ盾によりこうした問題が改善され、ユーザー拡大につながる可能性もある。他方、金属プリンターで競合するメーカーの幹部は、「逆に我々にとってはチャンス。GEの競合企業はアーカムなどから買いにくくなるはず」と期待する。

 日本では一時のブームが落ち着いた感のある3Dプリンター。だが、GEをはじめ欧米の企業は今も、その将来性に熱いまなざしを向けている。

 17日まで米シカゴで開かれていた国際製造技術展「IMTS2016」。会場では3Dプリンター関連の出展が前回の数倍規模に膨れあがり、注目を浴びていた。既存工法から全てが置き換わるとは思えないものの、着実に適用領域が広がりそうな気配がある。今後も業界各社の動向から目が離せない。
(文=藤崎竜介)
日刊工業新聞2016年9月21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
3Dプリンターで作り出した金属部品ばかりでできた小型ジェットエンジンを試作するなどGEは以前から使うことに積極的なのは有名。 http://newswitch.jp/p/689 一方で、今日アップしている工作機械業界の座談会にも出てくるが、「積層造形は日本より米国の執着がすごい」という。IoT企業に変貌したGEはこれをどのようなソリューションサービスに組み込んでいくか楽しみであり、日本企業には脅威になるかもしれない。

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