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オープンデータでイノベーション創出へ

ロンドンやリオ大会でも脚光、東京五輪に向けて普及の機運高まる
オープンデータでイノベーション創出へ

ニューヨークの地下鉄構内の地図を使った「トンネル・ビジョン」のデモ

 「オープンデータ」という言葉をご存知でしょうか。政府や自治体あるいは特定の企業、業界内にとどまっているデータをインターネット上で公開し、すべての人が利用・再掲載できるようにしようという試みで、世界的な潮流となっています。これにより、防災や観光、交通、サービス関連といったアプリケーションソフトの開発を促し、行政の透明化・効率化、利便性の向上、企業活動・経済の活性化につなげる狙いがあります。

 2012年のロンドン五輪・パラリンピックの際にもロンドンの交通局で大々的にオープンデータが採り入れられ、都市の魅力を高めるのに一役買いました。今年のリオデジャネイロ大会でも、公共交通機関などのリアルタイムデータがウェブサイト(data.rio)で公開され、バリアフリーや交通・観光支援などさまざまなアプリの開発につながっているそうです。ちなみに、米国(data.gov)、英国(data.gov.uk)のほか、日本政府(data.go.jp)もオープンデータ情報を公開しています。

国内は東京メトロなど公共交通で先行


 一方、国内企業の試みとしては、2014年9月に東京メトロが鉄道事業者として初めて実施した事例が有名。民営化10周年記念イベントとしてオープンデータ活用コンテストを開催し、全線で走行中の列車の位置や遅延情報などのデータを外部のソフトウエア開発者が使える形で公開しました。欧米、アジアからも含め281件もの応募があり、時刻表アプリや遅延予報アプリ、トイレに行くのに途中下車を効率化するアプリ、ベビーカーを押しているお母さんがどの入り口を利用したらいいか分かるアプリ、トンネルの列車からの立体地下風景を楽しめるアプリなど、思いもよらないアイデアに基づく作品が寄せられました。

 オープンデータはこうした公共交通機関での利便性がとくに高いようで、2015年9月には、公共交通事業者や情報通信技術(ICT)関連など30社・団体が結集し、「公共交通オープンデータ協議会」が発足しています。理事会社の東京メトロ、NEC、JR東日本、富士通のほか、全日空、日本航空、東京大学、ソニー、大日本印刷NTT日立製作所などが参加し、現在では41社にまで会員が拡大。オブザーバーとして総務省、国土交通省、東京都も名を連ねています。

「オープン化によって多くのチャレンジが可能になる。データをオープン化してイノベーションを起こそう」。こう強調するのは、公共交通オープンデータ協議会の会長を務め、今やオープンデータの伝道者の顔も持つ東京大学の坂村健教授。同教授によれば、公共交通といった分野だけでなく、企業レベルでもオープンデータの活用法がいろいろありそうです。

物流分野で優勝賞金200万円のコンテスト


 その一環として、賞金総額420万円のオープンデータ活用コンテストをこのほど開催したのが、大和ハウスグループで物流システムを手がけるフレームワークス(静岡市駿河区)です。東京メトロに続き、坂村教授が所長を務めるYRPユビキタス・ネットワーキング研究所(東京都品川区)との共催。大和ハウスグループの物流にかかわる生データを利用した、物流や倉庫管理業務に役立つアプリなどが寄せられ、9月12日に結果発表と表彰式が行われました。

 そこで賞金200万円の最優秀賞に輝いたのは、「先輩!秘密の休憩場所を教えてください!」という神奈川県中小企業診断協会所属の中小企業診断士4人によるソフト。新米ドライバー向けに、先輩ドライバーの過去の運行データから、運行ルートでの休憩場所を事前に検索しておけるというものです。
《続きは日刊工業新聞電子版のオピニオン欄でご覧になれます》
ニューヨーク地下鉄の「トンネル・ビジョン」
2016年9月19日付日刊工業新聞電子版
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
ニューヨーク地下鉄の「トンネル・ビジョン」は構内の地図にスマートフォンのカメラを向けるとAR(拡張現実)方式で、スマホ画面にグラフや数値がビジュアルに表示される。内容は、地下鉄の路線ごとの運行状況はじめ、一定時間に地下鉄の改札を通過した乗客数、その駅の周辺のアパート料金、住民の年収(中央値)など。ほかに、高層ビルが立ち並ぶ通りに夕日がまっすぐ差し込んで美しい風景が味わえる通りをその日ごとに地図上で表示するNYCHengeや、ニューヨーク市警の事故データをもとにした時間帯ごとの交通事故マップといったアプリもニューヨークならでは。ニューヨーク市は別名「ビッグアップル」と呼ばれることから、その名前にかけて、「NYCビッグアップス・コンペティション(NYC BigApps Competition)」と名付けたオープンデータコンテストが毎年開催されている。

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