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中間所得層3分の2が貧乏になっている先進国の現実

拮抗する米大統領選で待ち受ける答え
 9月2日に発表された8月の米国雇用統計では、新たな雇用創出件数が15万1000人と、予想の18万人を下回った。雇用の伸びは年ベース2・5%で上昇しているものの、米連邦準備制度理事会(FRB)が目標とする3%を下回っている。また、賃金上昇が見られず、インフレ懸念もないことから、市場は20―21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げ先送りと予想し、12月に利上げが実施されるかどうかに注目している。

 レイバーデイ休日が明けた6日からの米国市場では、ナスダック総合指数が過去最高高値を付けたが、地区連銀総裁2名が9月利上げに積極的な発言が引き続き、株価市場では様子見が続きそうである。そして、大統領選挙まであと2カ月となり、ニュースの焦点となりそうだ。

 民主・共和両党の候補者の第1回テレビ討論が26日に予定されている。世界のメディアがトランプ対クリントンの舌戦に集中するだろう。

 CNN/ORCの調査では、今のところほぼ五分五分の接戦で11州(オハイオ、フロリダ、バージニア、ノースカロライナ、ペンシルベニア、コロラド、ウィスコンシン、ミシガン、ネバダ、アイオワ、ニューハンプシャー)が勝敗のカギを握る。

 中西部オハイオ州のようにかつて鉄鋼業が栄え、地元経済を支えてきた中高年の白人労働者は、IT革命や新しい成長分野から取り残され、中間所得層から脱落しつつある。

 格差が拡大するなか、彼らのルサンチマンがトランプ支持のコアになっている。「米国を再び偉大にする」というトランプ候補のスローガンは、この支持層には効き目があるようだ。

 格差拡大が米国大統領選挙の根底にある。マッキンゼー・グローバル・インスティチュートのリサーチは米国経済は国内総生産(GDP)が伸びても中間所得層がその恩恵を受けない構造を指摘。中間所得層は1993年から05年にはGDP成長の約18%を配分されたが、その比率は05年から14年にはわずか4%に減少している。

 同リサーチによれば、この傾向は先進国25カ国5億人の人々の生活においても同様に、見られる。93年から05年までの期間で生活水準が以前よりも悪くなったのはわずか2%だったが、05年から14年までのグローバル化が進んだ10年間では、中間所得層3分の2の実質所得が減少したという。

 特に、若い世代、母子家庭、教育レベルの低い層に貧困が拡大している。

 米国のホスピタリティやサービス産業では雇用創出が見られるが雇用保障はなく、また専門性の高い職種では実質賃金の上昇が見られるが若い世代にエントリーレベルの機会が少なく、世代間での賃金格差に加え教育レベルでの格差も広がっている。
(文=大井幸子・国際金融アナリスト兼SAIL社長)
日刊工業新聞2016年9月9日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
中間所得層の減少は、日本においてすでに20年前から起こっている。「失われた20ー25年」と軌を同じするが、米国でも1人当たりのGDPは上昇しているのに、生活が豊かになっていると感じている人は、日米でもかなり減っている。すでに言われてことだが、先進国における政治勢力が右傾化していることと無関係ではない。 日本をはじめ経済格差の問題点は、「貧しい人が多すぎる」ということとするなら、「新自由主義的経済政策」に対峙する政策を打ち出す政治・経済勢力、あるいは世代がどこまで出てくるか。

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