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年配層に“ラジオの時間”戻る。ワイドFM効果で専用機じわり拡大

各社、琴線に触れる製品相次ぐ
年配層に“ラジオの時間”戻る。ワイドFM効果で専用機じわり拡大

東芝エルイートレーディングの「TY―AR55」(左)とソニーの主力製品「SRF-V1BT」

 AMラジオ放送番組をステレオの高い音質で楽しめる「ワイドFM放送」の普及に伴い、ワイドFMが聞けるラジオ専用機の需要がじわりと拡大している。これを踏まえ、東芝エルイートレーディング(東京都千代田区)は普及価格帯の製品2機種を8月に発売。ソニーはワイドFMが聞ける機種を増やしており、すでに全32機種中27機種が対応した。ワイドFMを楽しめる機種が増える中、ラジオに慣れ親しんだ年配層の琴線に触れるような製品も出てきた。

 東芝エルイートレーディングはこのほど、普及価格帯製品「TY―SR55」と「同AR55」を発売した。ステレオスピーカーを備えており、ステレオ放送ならではの臨場感やクリアな音質を楽しめるという。

 これまでラジオ専用機の多くは、モノラルのAM放送を楽しむ製品だった。ラジオ専用機の購入者の年代が高いため、ワイドFMの存在を知らなかったり、モノラルで満足したりする人が多かったためだ。

 ステレオで聞ける環境が整っているにもかかわらず、モノラルで聞いていることになり「ユーザーにとっても(高音質で聞ける)機会を逃すのはもったいない」(商品企画部)と指摘する。

 東芝エルイートレーディングは購入層を踏まえ、「AR55」のアナログチューニングに大きめのダイヤル目盛りと同調ランプを採用した。「懐かしさと親しみを感じる世代が、まだいる」(同)として、古き良き時代を思い起こさせるデザインにして訴求している。

AM放送が受信できないマンション層に狙い


 一方、ソニーはワイドFMを受信できる新製品を発売すると同時に、以前に発売していた製品もワイドFM対応を進めた。今では「ラジオを購入する際の選定基準に『ワイドFMが受信できること』が入ってきている。ワイドFM需要は今後も継続する」(ソニーマーケティング)という。

 ソニーが把握しているラジオ専用機のユーザー層は、50代以上の男性が85%。この層が最大のターゲットだが、近年は新たな市場を模索する。

 その新規開拓先としてマンション住まいの30―40代に注目する。マンションやビルの中では、AM放送が聞きづらい場所があるためだ。以前はラジオを聞いていたが、今はAM放送が受信しにくい環境にあり、聞かなくなってしまった層にアプローチする。

 ラジオ専用機が注目されたのは東日本大震災。地震など災害対策としての需要はほぼ一巡したが、現在はワイドFMの普及に伴う商機が広がっている。スマートフォンなど多様な機器でラジオを楽しめる中、ラジオ専用機は再び消費者の購買意欲を喚起しつつある。
日刊工業新聞2016年9月7日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ラジオに限らず埋もれた機能を発掘すればAV機器などでも手堅く需要を取り込めそう。iPhone7が発表になったばかりなので。

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