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【連載】挑戦する地方ベンチャー No.9 Payke

バーコード読み取るだけで商品説明を多言語表示
 2020年に東京五輪を控え、訪日外国人やインバウンド対策に各社追われている。そんな中、小売店での外国人接客を強力にサポートするシステムを開発しているのがPaykeだ。古田奎輔社長は沖縄で越境ECサイトを運営していた経験から、地元企業のインバウンド対応への遅れを痛感。商品についているバーコードをスマートフォンで読み取るだけで、多言語に翻訳された商品情報が表示されるというシステムの着想に至った。


体温計と避妊検査薬を間違える


 普段、私たちが何も考えず選んでいる商品も、外国人から見ればよくわからないものは多い。「外国人は日本語のパッケージが我々の想像以上に読めません。実際に、下剤と下痢止めを間違えたり、体温計と避妊検査薬を間違えたりする例があります。」(古田社長)。ウェブで検索しようにも、そもそも訪日客のスマートフォンは日本語キーボードではありません。どうやって検索すればよいかわからない、という事態になる。

 Paykeでは商品に必ず付けられているバーコードに注目。バーコードに紐付いた、「多言語商品情報データベース」を構築。スマホで読み取るとその商品についてPaykeのデータベースに登録された情報が多言語で表示される。データベースには商品説明や使用法だけでなく、画像や動画も登録できるため広告としても利用できる。英語、日本語、中国語(繁体、簡体)、韓国語に対応しており、ベトナム語、タイ語など、ニーズの増加する言語にも対応予定だ。

 データベースに情報を登録する作業は、同社がメーカー企業向けに発行する管理アカウントから行える。登録作業はメーカーが直接日本語で行える。翻訳は人力翻訳、機械翻訳に加えて、すでに持っている翻訳物を利用することも可能だ。
 
 いずれにせよ、メーカーそれぞれから直接もらう情報こそに価値がある。小売店舗ではメーカーの顔や商品のストーリーが見えないことが多い。Paykeを使うことでメーカーのメッセージを直接消費者に伝えることができるようになる。「Googleにすら載っていない情報を、Paykeを使って得られるようになることを目指しています」。
 
 管理アカウントからは自社商品がスキャンされたトラッキングデータや、店舗のログも閲覧できる。今までPOSレジなどでは「購入した客」のデータを得ることはできたが、購入前に商品に興味を持った「見込み客」のデータを取得することはできなかった。Paykeによって、見込み客のデータを新たに加えたマーケティングが可能になってくる。

ペッパーとも連携


 ユーザー=訪日観光客と想定しがちだが、古田社長は2種類のユーザーがいると話す。
まずは訪日外国人。母数としては多く、アプリ自体の宣伝はしていないもののSNSなどの口コミで便利さが広まり、ダウンロード数も伸びている。

 もう一方は、小売店やその店員だ。訪日外国人が商品を分からないのと同様、小売店やその店員も商品説明が困難であり、機会損失を生んでいる。小売店向けには商品棚に直接設置できる「Paykeタブレット」を用意している。アプリをダウンロードする必要はなく、にあらかじめ商品棚に備え付けて、セルフサービスでバーコードを読み取ることが可能だ。この小売店向け端末により外国人への商品説明が格段に楽になる。

 さらに、7月にはソフトバンクロボティクス社のPepperとも連携し、同機能が使えるサービスを開始。Pepperの額に搭載されたカメラにバーコードを見せると、Pepperがそれを読み取り、Paykeの商品情報データベースから情報を参照、胸のディスプレイと音声を使って商品説明が多言語で行えるというもの。

 ドン・キホーテの店舗で実証したところ、1日に200スキャンされ、ペッパーが商品説明をする様子がSNSに拡散された。ロボットに興味を持つ外国人は多く、Pepperの周囲に置いた商品の売り上げがアップするなどの効果もあった。

 導入企業の業種としては食品、医薬品、化粧品等のメーカー企業と小売企業が多い。食品は土産物などを取り扱う地方の企業が多く、逆に医薬、化粧品はナショナルブランドと呼ばれるような企業が多い。ここに古田社長の経験と戦略が反映されている。
 
ニュースイッチオリジナル
前田亮斗
前田亮斗 Maeda Ryoto
アジアから多くの観光客がやってくること、県としてITに力を入れており、優秀なエンジニアの協力が得られやすいといった沖縄の地域性をうまく生かし、全国に広がりつつある沖縄発の注目ベンチャーPayke。 リコンバレーで起業する人が多いのは、暖かいからという話がある。沖縄も温かく好きな人が多い土地なのでチャレンジャーが数多く出てくることを期待しつつ、Paykeが沖縄発、地方発ベンチャーのロールモデルとして大きく飛躍していくことに期待したい。

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