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新薬メーカーの半分は工場譲渡の余地がある!?

後発薬普及の裏で特許切れ先発品の需要減少。旭化成ファーマは設備小型化
 旭化成ファーマ(東京都千代田区、堀一良社長)は、大仁医薬工場(静岡県伊豆の国市)で原薬製造設備の一部を小型化する。特許の切れた医療用医薬品が後発薬に押されて需要が低下しており、コストを抑えつつ供給責任を果たす狙い。約8億円を投じて発酵用タンクの置き換えなどを行い、当該医薬品の製造費用を約10%低減する。効率的な生産体制を築くことで、新薬の開発や供給の強化につなげる。

 菌を発酵させて原薬をつくる設備を撤去し、同様の機能を持つ小型の設備を導入する工事が8月に終わる見通し。発酵タンク総液量が約600キロリットルから約60キロリットルに減り、最も大きいタンクの容量は150キロリットルが20キロリットルになる。新設備を使った製造は11月に開始し、その原薬を使用した製剤は2017年4月以降に出荷する計画。

 対象製品は放線菌を発酵させてつくる抗生物質の「エクサシン」や、糸状菌の発酵により製造する免疫抑制剤「ブレディニン」。ブレディニンの売上高は96年度の85億円がピークで、後発品の台頭などにより、15年度は51億円となっていた。

 医薬品メーカーは特許が切れた先発品の長期収載品が苦戦し、新薬へ経営資源を振り向ける動きが目立つ。旭化成ファーマも血液凝固阻止剤「リコモジュリン」などの新薬の開発や供給に力を注いでいる。同社は富士医薬工場(静岡県富士市)で同剤の原薬製造を手がける新棟を完成し、17年4月に稼働する見込み。同剤の国内での適応拡大や、19―20年に米国で承認を目指すことに備える。

どうなる医薬品生産、工場譲渡・閉鎖相次ぐ


日刊工業新聞2016年4月6日「深層断面」の記事から抜粋


 製薬業界で工場の譲渡や閉鎖が相次いでいる。後発薬普及などの市場の変化や、創薬部門に比べ製造部門の地位が低くコスト削減対象になりやすいことが要因とされる。対策には受託生産で稼働率を上げたり、製剤開発の支援で付加価値を高めたりといった動きがある。だが売れ筋のバイオ医薬品の製造事業者が日本には少ないという構造問題の解決は容易でない。特に中堅メーカーは製造機能の位置付けを真剣に再考する時期に来ている。

CMOが受け皿に


 「新薬メーカーは1市場1工場の体制になる」(笠井隆行武州製薬会長)、「新薬メーカーの半分くらいは工場譲渡の余地がまだある」(井上伸昭シミックホールディングス取締役専務執行役員)。医薬品製造受託機関(CMO)各社は、製薬業界における工場整理の動きが一巡していないと指摘する。

 新薬各社が工場を譲渡する動きはここ数年相次ぎ、CMOや後発薬メーカーがその受け皿となってきた。また閉鎖が決まるケースも多い。直近では第一三共が3月31日に、子会社である第一三共ケミカルファーマの平塚工場(神奈川県平塚市)を2017年9月に閉鎖すると発表した。

 背景には過去に起きた新薬メーカー同士の合併と、直近の後発薬の普及がある。05―07年、合併によって第一三共や田辺三菱製薬などが相次いで発足。その後、政府が医療費削減の観点で後発薬普及政策を推進してきた。

 これに伴い、特許が切れた先発品である長期収載品のシェアが急落。合併で工場数に余剰感があった中、稼働率のさらなる低下に見舞われた。田辺三菱製薬の三津家正之社長は14年6月の社長就任後に鹿島工場(茨城県神栖市)を訪れたところ、「稼働率が3割でがくぜんとした」。同工場は15年4月に沢井製薬へ譲渡された。

 各社で工場の整理が進むのは、製薬企業内における生産部門の位置付けも影響していそうだ。「製薬業界にはもともと『生産部門はあまり付加価値を出していない』という考えがある」(山田謙次野村総合研究所上席コンサルタント)。

 日本製薬工業協会によると、基礎研究段階で合成された化合物が最終的に承認へ至る確率は約3万分の1。創薬は失敗の連続であるが、製薬会社の価値に直結する部分のため、費用を簡単に減らすわけにはいかない。

 そこで製造関連の固定費を削減し、少しでも研究開発費に回そうとの考えが生まれる。ある大手製薬企業の生産幹部は、「経営から『もっと工場を減らせないのか』と言われ続けており、何とか踏みとどまってもらっている状況」と吐露する。


長期収載品、先細りも


 では今後、製薬工場はどのように存在価値を示せば良いのか。一つの回答が、受託生産などを活用して高水準の稼働を保つことだ。エーザイはインドのバイザッグ工場(ビシャカパトナム市)で17年末に原薬の受託生産を開始し、20年度までに後発薬メーカーからの製剤受託も目指す。

 見逃せないのは、日本の工場の稼働率向上も狙っている点。バイザッグ工場では現在、インドと日本向け自社製品の原薬生産と製剤を手がける。製剤受託で生産能力が不足した場合、日本向け製品の製剤を川島工園(岐阜県各務原市)へ移す。

 さらに同工場では、錠剤などの製造法を開発する製剤開発業務を受託できる体制も20年度までに整える。製剤開発では、薬の飲みやすさや溶けやすさの向上が必要。体内に入った後に有効成分が効果を発揮する過程や速度も厳密な制御が求められる。そうした技術で顧客を支援できれば、付加価値が高くなる。

 製剤開発の受託は、CMOも勝ち残り策として重視している。武州製薬は美里工場(埼玉県美里町)内で16年10月に製剤開発棟を完成させる予定。従来は年間3件ほどだった製剤・試験法開発業務の受託を、20年ごろには同10件へ拡大する考えだ。

 シード・プランニング(東京都文京区)の予測では、国内CMO市場は20年度に15年度見通し比31・6%増の4108億円となる。だが後発品普及の影響で、長期収載品の受託が先細る可能性もある。CMOは製剤開発を手がけることでリスクの分散につながる。
(文=斎藤弘和)
日刊工業新聞2016年8月30日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
政府が後発薬の普及を進める裏側で、特許が切れた先発品の需要は減少している。新薬メーカー各社は成長に向けて、新薬開発に経営資源を振り分ける中、製造部門コストをいかに絞れるかが重要になっている。

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