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ルネサスが28nmの最先端マイコン。車載分野でシェアトップ奪還へ

TSMCと共同開発、来年にサンプル出荷
 ルネサスエレクトロニクスは1日、台湾の半導体受託製造会社TSMCと共同で、性能を左右する回路線幅が世界最短の28ナノメートル(ナノは10億分の1)の車載用マイコンを開発すると発表した。2017年にサンプル出荷を、20年にTSMCで量産を始める計画。大規模な情報処理が必要な自動運転向けで、市場開拓を先行する。

 競合他社は現在、線幅90ナノメートル製品を市場投入し、同40ナノメートル製品の研究開発を進めている。ルネサスは他社に先駆けて最先端の同28ナノメートル製品の量産に着手し、車載用マイコンの世界シェア1位奪還につなげたい考えだ。

 ルネサスが14年から市場投入した同40ナノメートル製品に比べ、同28ナノメートル品はメモリー容量が約4倍以上に、情報処理能力が4倍以上になる。自動運転車では大規模で複雑な情報を瞬時に処理することが必要で、マイコンのさらなる処理能力の向上が求められている。

 15年の車載用マイコン市場シェアは、オランダのフリースケール・セミコンダクターを買収した米NXPセミコンダクターズが1位、米インターナショナル・レクティファイヤーを買収した独インフィニオン・テクノロジーズが2位に浮上。首位を維持してきたルネサスは3位に転落した。

車メーカーと直接対話する機会増す


日刊工業新聞2016年3月7日


 先進運転支援システム(ADAS)や自動運転の本格普及を前に、半導体メーカーに求められる役割が広がっている。車載向け半導体の将来像を示し、それによりどんな新機能を実現できるかを訴求する取り組みが重要になってきた。ルネサスエレクトロニクスの大村隆司執行役員常務に、車載向け半導体を取り巻く環境や同社の戦略について聞いた。

 ―ADASや自動運転の実現のため車メーカーがIT化の取り組みを加速する中、半導体メーカーの立ち位置も変化してきました。
 「最近、当社は車メーカーから『10年後に半導体で何が実現できるか』といった問い合わせをよく受ける。走る、曲がる、止まるの制御とITの融合が、車メーカーにとって大きな課題となった。これまでは車メーカーと半導体メーカーの間には1次サプライヤーが介在していたが、直接対話を求められる機会が多くなったと感じる」

 ―そうした求めにどう対応しますか。
 「顧客の視点にもっと近づくことが重要と考える。当社の半導体で実現できる機能をモノを通じて体験してもらう。実際に『ADASカー』を試作し米ラスベガスで走らせた。マイコンやシステムLSIなどの性能をアピールすることはもはや重要ではない」

 「かつて当社は、いわば(材料の)”大根“や”にんじん“を『どうぞ』とやっていた。今はある程度の”料理“に完成させて提案している。すると顧客側もプロだから、自社技術と組み合わせて実現できる製品を想像できる。こうした関係を構築していきたい」

 ―顧客ニーズに沿った”料理“を提供できるかが問われますね。
 「自前ですべての材料を揃えられるとは思っていない。アルゴリズムやソフトウエアなど当社が手薄な部分は他社との提携や協業で補っていく」

 ―エコシステム(ビジネスの生態系)づくりが重要になります。
 「現在、(ルネサスの車載向けLSIと連携する製品・ソフトを開発する企業で組織する)『R―Carコンソーシアム』を展開している。さらにADASにフォーカスしたコンソーシアムを立ち上げる構想を練っている。餅は餅屋だ。当社はマイコン、LSI、アナログ、パワー半導体をしっかり進化させる。足りない部分はエコシステムでカバーして競争力を高める」

【記者の目・製品融合で顧客指向を進化】
 ルネサスが半導体製品別の事業体制から、車や産業機器向けなどのアプリケーション(応用製品)別の事業体制に移行して約2年。顧客志向ビジネスの芽が見えてきた。かつて存在した製品分野ごとの垣根が取り払われ、多様な製品を手がける強みが生きてくる。各製品の融合で顧客指向を進化させてほしい。
(聞き手=後藤信之)

日刊工業新聞2016年9月2日
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
自動運転や先進運転支援システムの高度化にはソフトやサービスとともに半導体の進化が欠かせない。ではないと増加する車内情報を処理し切れなくなる。一部では半導体の進化が追いつかないことが、より安全で快適な自動運転を実現するうえでボドルネックになるとの指摘もある。こうした中、ルネサスがマイコン分野で先端を走る意味は大きい。

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