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エネルギー一本足打法から抜け出すエンジ大手。熱視線の先は?

医薬・医療、人体への安全性から高いエンジニアリング能力求められる
エネルギー一本足打法から抜け出すエンジ大手。熱視線の先は?

日揮が手がけた富山化学工業の無菌製剤プラント

 エンジニアリング専業各社が、投資の活発化が予想される医薬・医療分野で受注拡大を狙っている。施設の整備には人体への安全性などから高いエンジニアリング能力が求められるものの、エネルギー分野のプラントよりもコンスタントに案件の獲得を見込める。製薬会社がジェネリック医薬品(後発薬)の普及に向けて、設備投資を増やすのも追い風だ。日揮と千代田化工建設、東洋エンジニアリングにとって、同分野の成長を取り込むことが収益を下支えする。(孝志勇輔)

日揮、無菌環境のノウハウ強み


 日揮は医薬・医療分野で、再生医療と後発薬への対応、海外展開を重視している。再生医療では、技術開発が進み始めた2000年代初頭から、施設の受注を積み重ねている。

 穴田信二第3事業本部技術理事副本部長は「(再生医療に関連する)医薬品の量産に向けた設備の需要を見込める」と今後の案件拡大に期待を寄せる。こうした施設の前提となる無菌環境のノウハウを持つことが、受注へのアドバンテージだ。

 後発薬の浸透に伴う製薬会社の積極的な投資の取り込みも虎視眈々(たんたん)と狙っている。後発薬により価格が抑えられる一方、製薬会社はコスト低減も迫られる。

 「生産性向上がメーカーの合言葉で、効率の良い設備の構築を求めてくる」(穴田技術理事副本部長)という。エンジニアリング能力を生かし、メーカーの要求に応えていく。

 海外展開では案件の獲得に3パターンの戦略を描く。日系の製薬会社による海外展開への対応に加え、欧米メーカーの日本国内での案件を受注することも狙う。外資系にとって、日本は大きな医薬市場という。

 さらに外資系による海外案件の獲得も重視する。4月から始まった中期経営計画でも海外事業の拡大がテーマの一つで、嘉堂亮一理事は「海外展開は避けて通れない」と強調する。海外のエンジニアリング会社との協業も視野に入れながら、収益基盤の拡充を目指す。

千代田化工、再生医療向け開発後押し


 「建物のエンジニアリングから施工まで一貫して手がけることができる」。千代田化工建設の黒澤友明ChAS・ライフサイエンス事業本部長代行は強みをこう説明する。

 化学プラントで培った技術やノウハウを生かし、子会社の千代田テクノエース(横浜市神奈川区)と連携して同分野での競争力を高めている。インフルエンザ用ワクチンの製造にかかわる案件など、さまざまな受注を積み上げてきた。

 千代田化工は、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の実用化に関連するエンジニアリングにも乗り出している。先端医療事業を展開するアイロムグループから、再生医療や遺伝子創薬に用いる臨床用ベクター(物質)の製造施設のEPC(設計・調達・建設)業務を受注した。

 製造品質管理基準「GMP」に沿って、茨城県つくば市内に建設している。再生医療向け開発品の迅速な商用化を後押しする。

 黒澤本部長代行は「医薬分野は投資の波がほとんどなく安定している。“ジェネリックバブル”に伴う投資も予想される」と指摘する。

 エネルギー分野が投資動向によって案件の受注や進捗(しんちょく)が左右されやすい中で、比較的安定した収益を見込める同分野を強化する効果は大きい。

 また千代田化工にとって、担当者が以前にGMPの基準作りに携わっていたこともプラスに働いている。製薬業界では同社の存在感が高く、コンサルティング力も持ち合わせており、製薬会社などとの関係強化につながりそうだ。

東洋エンジ、原薬関連で受注拡大



(武州製薬の製剤装置)

 東洋エンジニアリングは子会社のテックプロジェクトサービス(TPS、千葉県習志野市)が、医薬・医療分野を担っている。原料の製造にあたる原薬に関連する案件を中心に受注を積み重ねており、物質が飛散するのを防ぐ「封じ込め」と呼ぶ技術に強みを持つ。

 「(医薬施設で)健康な人体にこうした物質が一定以上取り込まれてしまうと悪影響が出る」(赤居謙TPS医薬本部長代行)ためだ。

 化学合成による医薬品に加え、市場成長が期待できるバイオ医薬品やペプチド医薬品などの新薬にも対応している。これまでにペプチド医薬品の製造工場の稼働にこぎつけ、核酸医薬品などの治験プラントも顧客に引き渡した。

 またバイオ医薬品分野のエンジニアリングノウハウを持つ米ミドー(オハイオ州)との提携により、技術移転も実施。製薬業界の動向をとらえて布石を打っている。製薬会社が新薬を開発する上で、赤居本部長代行は「ラボや治験施設を整備するニーズが高まっている」と指摘する。

 東洋エンジは国内に加え、海外医薬メーカーの開拓にも動いている。インドの現地法人が医薬向けチームを立ち上げ、現地の製薬会社から施設の概念設計と基本設計の案件を獲得した。インドは製薬大国と言われており「1年半の営業活動が実を結んだ」(東洋エンジ)という。受注を重ねることで、海外展開の足場固めにつなげる。

製薬会社の設備投資が追い風


 製造や品質管理面での基準「グッド・マニュファクチュアリング・プラクティス(GMP)」を踏まえて、医薬・医療施設の案件を進めている。日本では厚生労働省が省令により基準を示しており、医薬品や医療機器の安全性を確保する。また政府が20年度末までに後発薬の数量シェアを80%に高める目標を打ち出したことで、製薬会社の積極的な設備投資が予想され、案件も増える見込み。
日刊工業新聞2016年8月18日
長塚崇寛
長塚崇寛 Nagatsuka Takahiro 編集局ニュースセンター デスク
長引く原油価格の低迷を受け、エンジ各社は石油や天然ガスプラントといったエネルギー分野への一本足打法からの脱却を試みている。その中で、日本国内でも案件の掘り起こしが期待できる医療・医薬プラントはその先兵となろう

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