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みずほ銀行のコールセンターに導入した「ワトソン」の正答率は?

上位5位以内の正答率は85%。「経験豊富なオペレーターの方が信頼が高い」
 みずほ銀行が横浜市神奈川区のコールセンターに人工知能(AI)技術を活用した「ワトソン」と音声認識技術を組み合わせたシステムを導入したのは2015年2月。すでに導入から約1年半が経過した。

 オペレーターが顧客からの電話を受ける。会話内容に応じ回答候補となる必要情報が目の前のパソコンの画面に数秒ごとに自動的に切り替わり、映し出される。米IBMの人工知能「ワトソン」がオペレーターと顧客との会話を分析して、適切な解を探し出す。

 顧客とオペレーターの電話の会話を音声認識システムが文字データに変換し、それをワトソンに送信。ワトソンは顧客の質問を解析、最適な回答を導き出し、オペレーターのパソコン画面に提示する。会話の内容に応じて、マニュアルや店舗・ATM、ホームページ上の商品、サービスなど五つの区分で各項目上位10位の回答候補を表示する。

 15年2月―5月に10席で試験的に取り組みを始めた。インターネットバンキング関連の一般紹介業務が対象で約1万件の利用件数があった。

 ワトソンの特徴を発揮するのに重要になるオペレーターの発話を文字数ベースで音声認識した確率は88%。目標の80%を上回る数値だった。

 横浜ダイレクトバンキングセンターの橘正純所長は「認識率は100%ではなかったが、テキスト化したデータは内容を理解できるレベルでワトソンの回答は一定レベルの正答率を確保した」と振り返る。

 顧客の発話の認識率は62%。オペレーターが要件を復唱することで回答候補提示への問題はなかったという。回答候補の提示上位5位以内の正答率は85%。取り組み直後は70%程度だった。

 試験期間中は細かな調整を続けた。重要な業務用語を抽出し、検索による重みづけを実施し、会話が進む過程で古い発話の検索における重みづけを逓減したりすることで検索性能を高めた。


「ベテラン営業マン」のような役割も期待


 現在、ワトソンに対応した席は200以上に拡大している。オペレーターによってシステムの習熟度にバラつきがあるため、底上げが課題だ。橘所長は「経験豊富なオペレーターの方がワトソンへの信頼が高い」と指摘する。

 今後も新たな技術を積極的に採用して顧客利便性を高める。米ベンチャー企業のシンプルエモーションの技術を活用し、人の声の周波数から喜び、怒りといった感情を自動で測定し、オペレーターが対応しやすくする実証実験にも取り組む。

 ワトソンの利用の場も広がる。ワトソンは顧客の会話と回答の組み合わせを学習する。顧客の嗜(し)好を割り出すなど、「ベテラン営業マン」のような役割も期待できる。

 現在はインターネットバンキング関連などの受電対応にのみ使っているが、橘所長は「ワトソンの特性を考えれば、幅広い使い方が考えられる」と期待を込める。電話での金融商品の提案など営業での活用も視野に入る。
(文=栗下直也)
日刊工業新聞2016年8月8日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
メガバンク3行とも「ワトソン」を導入しているが、それぞれ各行によってどのような違いがあるのだろう。どちらにせよ、いずれは営業などもできるワトソン行員が数多く誕生する。銀行に限らず保険会社でも同じ。人間の役割を見つめ直すことが企業の差別化か。

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