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「MRJ」米での飛行試験、準備佳境に。機体のハードよりもソフトの不具合を危惧

400人の日米混合施設。コミュニケーションの課題は解決策が見え始める
「MRJ」米での飛行試験、準備佳境に。機体のハードよりもソフトの不具合を危惧

飛行試験中のMRJの飛行試験1号機(三菱航空機提供)

 三菱航空機(愛知県豊山町、森本浩通社長)は月内にも、開発中の国産小型ジェット旅客機「MRJ」の米国での飛行試験を始める。天候の良いシアトル郊外で約1年間かけ、運航に必要な型式証明取得のための2500時間の飛行を確保する計画だ。2018年半ばのANAホールディングスへの量産初号機納入に向けた準備が佳境に入る。

 型式証明とは、航空機を運航するための資格のようなもの。国土交通省が、強度や構造などの安全性と、騒音や排出物などの環境性を満たしているか審査する。各種試験への立ち会い、製造過程の検査などに続き、飛行試験にも立ち会う。

 三菱航空機は15年11月の試験1号機初飛行を皮切りに、愛知県営名古屋空港(愛知県豊山町)を拠点に飛行試験を開始。5月には試験2号機が初飛行し、7月末までに2機で計52回、111時間飛行した。

 ただ、国内では悪天候などで飛行時間を確保しづらく、一年中ほぼ晴天というワシントン州モーゼスレイク市のグラント・カウンティ国際空港に場所を移すことにしていた。

 試験1号機を8月中に、試験2号機をその後持ち込み、試験を始める。試験3・4号機も夏には初飛行し、年内には米国で試験を始める計画だ。

 国交省の審査組織「航空機技術審査センター」(同)も米国で活動する。審査項目ごとに担当者が現地に出向き、試験結果を解析する。実質、常駐状態の担当者も出てくるとみられる。北澤歩所長は「MRJを世界にしっかり送り出せる航空機にする」と抱負を述べる。

 量産初号機の納入時期は、当初13年の予定だったが、度重なる遅れで18年半ばまで延びた。さらなる遅れを避けるためにも、飛行試験を順調にこなさなければならない。

 三菱航空機は万全の状態で飛行試験に臨むため、準備を積み重ねてきた。400人体制の現地施設「フライトテストセンター」では、ドライランと呼ぶ予行演習を実施。日本人250人と米国人150人のコミュニケーションが課題だが、森本社長は「解決策は見えつつある」と心配していない。

 今後、飛行試験が進むにつれ、機体の改修が必要になるなどのトラブルが起きる恐れがある。試験期間の1年間は順調に進むと想定した見積もりだ。トラブル対応に手間取り、試験期間が延びれば、量産初号機の納入遅れを招きかねない。

 森本社長は「機体のハードウエアよりも、ソフトウエアで不具合が見つかる可能性がある」と危惧する。改修作業が必要になっても素早くこなし、影響を最小限にできるかが問われる。
(文=名古屋・戸村智幸)
日刊工業新聞2016年8月8日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
座席数100席ほどのリージョナルジェット(RJ)では、エンブラエルの新型機「E2」がライバル。受注数は640機でMRJの407機を上回る。すでに5月に初飛行した。座席数80―88の競合機種「E175―E2」の納入は20年で、MRJが先とはいえ、差は2年ほど。森本社長は「納入時期の優位性がたいぶ短くなった。これ以上遅れないようにしなければ」と危機感を示している。先日の英ファンボロ国際航空ショーでは欧州のリース会社から初受注したMRJだが、実機展示したエンブラエルの関心も高かった。また中国COMACのRJも受注を実績が出始めておりライバルは多い。

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